★ モーツァルト フルート協奏曲第1番 ト長調 K.313 (285c) ★

まだまだ寒い日々が続いているが、そろそろ春の顔が見え始めた今日この頃、軽やかなモーツァルトを聴きたい。
この優雅にして軽快なフルート協奏曲は、1777年秋から1778年初頭にかけてマンハイム滞在時に書かれたと言われている。
当時のフルートはまだまだ音程が不安定で扱いにくい楽器であったようで、モーツァルトの書簡にはこのフルートと言う楽器を嫌っているような記述も見える。
額面通りに受け取っていいのかは、諸説あるようだが、とにかく2曲残したフルート協奏曲は、富裕なオランダ人であるドジャンという素人フルート愛好家からの作曲依頼で作られた。
モーツァルトがマンハイムで親交を持った、宮廷楽団のフルート奏者ヴェンドリングという人が仲介している。

実はドジャンからは『軽めの協奏曲を3つと、四重奏曲を何曲か』という注文であったにもかかわらず、モーツァルトは約束を守らずこの2曲の協奏曲と3つの四重奏曲を渡したようである。
しかも第2番の方は、オーボエ協奏曲を移調したもので、おやおや手抜き?と言いたくなるような仕事だった。
従って、ドジャンから受け取った報酬は約束の半分以下だった。
似たようなお話は他にもあるが、このマンハイム時代のモーツァルトが上の空状態だった理由は、恐らくアロイジア・ウェーバー(後に奥様になるコンスタンツェの姉)との恋の行方が気になっていたのだろう。

○ フルート協奏曲第1番 ト長調 K.313 (285c) ○
このフルート協奏曲、モーツァルトが嫌いだった楽器とはとても思えない程、のびのびと歌っている。
音域もフルフルに使い切って、可憐なメロディーがいかにも女性的な佳品だ。

1.第1楽章(Allegro Maestoso)
ト長調。4/4拍子のソナタ形式。
まず弦に第1主題が現れる。
第2主題は穏やかな表情で、堂々とした第1主題とは対照的だ。
モーツァルトのピアノコンチェルト的なメロディラインは、なんとも優雅だ。
独奏フルートが入って、平行調への転調などを交えて華やかな展開を重ねる。
この楽章、いかにもモーツァルトらしい、素直で明るいメロディが爽やかだ。

2.第2楽章(Adagio ma non troppo)
ニ長調。4/4拍子のソナタ形式。
ゆったりとした導入部に続いて、独奏フルートとヴァイオリンに第1主題が現れる。
ここでの独奏フルートは、たっぷりと歌うことが要求される。
弦との掛け合いが印象的な、美しいアダージョだ。

3.第3楽章(Tempo di Menuetto)
主調に戻り、3/4拍子のロンド形式。
出だしの3拍子を聴くと、「ああ!メヌエットか」と思える。
この楽章は独奏フルートが、出ずっぱりでかなりテクニカルな演奏を聴かせ、最後は緩やかに曲を閉じる。


<今日の一枚>
今日は以前ルツェルン歌劇場の主席指揮者も務めていたグラーフのフルートで聴いた。
第1楽章は、以前よく聞いていたハンス=マルティン リンデのフルートよりも堂々としている。
モーツァルトの指示に忠実だと言えるだろう。
グラーフのフルートは、力強さと典雅さを併せ持つ多彩さが良いと思う。
■ モーツァルト:フルート協奏曲集
ペーター=ルーカス・グラーフ(FL.)、レイモンド・レパード指揮 イギリス室内管弦楽団


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<推薦盤>
勿論、オーレル・ニコレもランパルも良い。
だが、ここはオーケストラも含めた総合力でベーム盤を推薦したい。
ヴェルナー・トリップとウィーンフィルの息はぴったりで(当たり前か・・)、ベームが全体を掌握しきっている。
コスパも大変良い盤だ。
■モーツァルト:フルート協奏曲第1番、オーボエ協奏曲、ファゴット協奏曲
 ヴェルナー・トリップ(FL.)、カール・ベーム指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団


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2015.03.18 Wed l モーツァルト l コメント (0) トラックバック (0) l top
★ ハイドン ピアノソナタ Hob.XVI:52 変ホ長調 ★

今日は何気ない癒しをくれるハイドンで、心身共にゆったりしよう。
ハイドンの最後期に書かれたこのソナタは、ホーボーケン番号で言うと16/52、ランドン版の番号で言えば62番だ。
1794年の作曲ということだから、エステルハージ家のニコラウス侯爵が亡くなり、楽団が解散されてしまい、ハイドンにとってはある意味、年金を頂きながら自由に創作活動が出来るようになった時期でもあるそんな頃の作品。
ハイドンのピアノ・ソナタの中では最も難易度も高く、主題を細かく展開するよりも華やかで立派な主題を中心に雄大なソナタ形式に立ち戻ったというように思える作品だ。
ブラームスのように古典の枠組みのロマン派音楽を聞き続けると、ハイドンの音楽はとても『新鮮』な印象を受けるから不思議だ。

○ ピアノソナタ Hob.XVI:52 変ホ長調 ○
ハイドンは1794~1795年にかけてイギリスを訪問しており、Hob. 50~52の3曲はイギリス・ソナタとも呼ばれている。
従って、この52番はその終曲に当たる。
この3曲はハイドンのそれまでのソナタに比して、高難度で非常にピアニスティックな作品に仕上がっているように思える。
ハイドンらしからぬと言うと、怒られそうだが、これには晩年の作品だからという理由よりも当時のロンドンのピアノ事情もありそうだ。
当時のロンドンにはあのムツッオ・クレメンティが存在しており、ハイドンがクレメンティの高弟(女性)の為にピアノ曲を書いたという話も聞いたことがある。
それがこのイギリス・ソナタだとの確証はないようだが、とにかくクレメンティを意識したことは間違いないはずで、自然に気合が入ったことだろう。

1.第1楽章(Allegro)
変ホ長調。4/4拍子のなかなか雄大なソナタ形式で書かれている。(ハイドンらしからぬと言ってはいけない)
堂々とした第1主題と軽やかな第2主題の対比も面白く、ダイナミクスも細かく変化する。
明らかにハイドンのメロディだが、ベートーヴェンの香りが少し漂ってくる第1楽章だ。

2.第2楽章(Adagio)
ホ長調の3部形式の3/4拍子アダージョ。
多少物思いに沈むようなゆったりした楽章で、中間部は同主調。
緩徐楽章であっても、装飾音も多めで、印象的な同音連打などもあって変化に富んでいる。

3.第3楽章(Presto)
主調に戻って、3/4拍子のロンド形式。
出だしから躍動的な音が乱れ飛ぶ。
ここでも同音連打が聞かれ、ダイナミクスの変化も急激なものが多い。
繊細なタッチと、懐の深い表現を要求される楽章になっている。


<今日の一枚>
今日は少し珍しいフォルテピアノによる演奏を聴いてみよう。
ハイドンのピアノ・ソナタ自体があまりメジャーではないため、選択も限られてくるのだが、これは貴重な全集ものだ。
ソナタ全曲を5人の演奏家が分けて演奏しており、この変ホ長調のソナタはStanley Hooglnadが演奏している。
以前ご紹介したヴァルター・オルベルツの全集も癖のない丁寧で良い演奏だったが、こちらは日本人2名も含めて違う演奏家のハイドンを楽しめる全集になっている。
【ハイドン ピアノソナタ Hob.XVI:44 ト短調】
ハイドン ピアノソナタ Hob.XVI:44 ト短調

■ハイドン:ピアノ・ソナタ全集(10枚組)(Haydn:Piano Sonatas Complete)Import
バルト・フォン・オールト, ウルズラ・デュッチュラー, スタンレー・ホッホラント, 小島芳子, 福田理子(Pf)

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<推薦盤>
リヒテルのハイドンは一味違う。
リヒテルは、モダンピアノで繊細かつ雄大なハイドンを作り上げている。
これも前回もご紹介した盤。
■ハイドン:ピアノソナタ第40番&41番&44番&48番&52番
 スヴャトスラフ・リヒテル(Pf.)

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2015.01.20 Tue l ハイドン l コメント (6) トラックバック (0) l top
 ★ ブラームス ヴァイオリンソナタ第1番 ト長調 『雨の歌』 ★ 

ブラームスのヴァイオリン・ソナタと言えば、こちらを思い出す方が多いかも知れない。
私も実は、イ長調のソナタを聴けば、必ずト長調のこのソナタも聴いてしまう。
昨日は日本中が冷たい雨に包まれたこともあり、やはり『雨の歌』だろう。

○ ヴァイオリンソナタ第1番 ト長調作品78 『雨の歌』 ○
このト長調のソナタは、ブラームス自身の歌曲「8つの歌曲 作品59」の第3曲『雨の歌』と、同じく第4曲『余韻』から主題を取っていることから、『雨の歌』と呼ばれている。
ブラームスの歌曲は、他の作品に比して演奏会でも取り上げられる機会が少ないようだが、「ドイツ・レクイエム」以外にも、生涯を通して多くの歌曲を残しており味わい深い物が多い。
この「8つの歌曲」の『雨の歌』作品59-3は、ブラームスにとって最も大切な女性クララ・シューマンによって、こよなく愛されていたことでも有名である。

1.第1楽章(Vivace non troppo)
ト長調。ピアノの和音に導かれて、ヴァイオリンに付点リズムの印象的な第1主題が静かに現れる。
この特徴的な主題は歌曲『雨の歌』の旋律に通じるものがあると思う。
ピアノに主題の現れることの多いブラームスだが、冒頭のここはヴァイオリンが美しい主題を奏でる。
この儚くも美しい主題は、雨の雫が窓を覆うように、全曲を支配しているかのようだ。

2.第2楽章(Adagio)
変ホ長調の三部形式。
穏やかな慰めに満ちた緩徐楽章になっている。
シューマン夫妻の末っ子フェリックスが病床にあった際、ブラームスは作曲中のこの第2楽章を引用してクララを慰めたという。
次の年にはフェリックスは帰らぬ人となり、同年にこのソナタは完成している。
フェリックスの死を悲しむクララを想い、慰めるブラームスの愛が籠められているように感じる。

3.第3楽章(Allegro molto moderato)
ト短調のロンド形式。
冒頭の主題は確かに歌曲『雨の歌』だ。
「Walle,Regen,walle nieder・・・」
で始まるこの歌は、クラウス・グロートの詩によるもので、「雨は子供の頃に見た夢を呼び覚まし、甘いざわめきをもたらす」と歌われる。

私は全体を通じて、この曲はブラームスのクララに向けた、とてもプライベートな曲だと感じている。


<今日の一枚>
先日、イ長調のソナタは女王アンネ=ゾフィー・ムターとオーキスのコンビで聴いたが、今日はもう少し抑制的なズッカーマンとバレンボイムで聴いてみよう。
ズッカーマンの豊潤なヴァイオリンの音色が『雨の歌』には相応しい。

■ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ(全曲)
 ピンカス・ズッカーマン(Vn.)、ダニエル・バレンボイム(Pf.) 

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2014.12.21 Sun l ブラームス l コメント (8) トラックバック (0) l top
 ★ ブラームス ヴァイオリンソナタ第2番 イ長調 ★ 

このところブラームスを聞いている。
私の場合、この作曲家を聴き始めると、暫く嵌るという傾向がある。
ブラームスの3曲のヴァイオリンソナタはどれも大好きなのだが、この季節敢えて聞き分けるとしたら、例えば第1番は雨の日に、第2番は抜けるような秋の青空の下で、そして第3番は秋の夜長の読書のお供に。
本日は爽やかな晴天でもあり、やはり第2番だろう。

○ ヴァイオリンソナタ第2番 イ長調作品100 ○
このイ長調のソナタは、とても明るく、ブラームスのロマンティシズムが快活に現れた作品だと思う。
だから、秋の清々しい青空はお似合いだ。
第一番のト長調のソナタは、『雨の歌』の副題も与えられているが、これは自身の同名の歌曲からモティーフを引用しているからであり、第3番も含めて、ブラームスのヴァイオリンソナタは「歌曲」に聞こえてならない。
ブラームスのヴァイオリンソナタは、「歌」であり、そして密やかな弱音にこそ比類ない美しさが存在する。
私は演奏を選ぶ場合も、かそけき歌を聴く積もりでチョイスする。
あまり技巧を誇示する曲ではないため、むしろ演奏家の解釈の部分が問われる作品だと思う。

1.第1楽章(Allegro amabile)
イ長調。ピアノの主和音から導かれ、ヴァイオリンが呼応しながら第1主題を奏でる。
流れるようにピアノに第2主題が現れて、途中時折短調に変貌しながら展開していくソナタ形式。
この3/4拍子の主題は正に愛らしく(amabile)、この楽章全体を甘く包んでいるようだ。

2.第2楽章(Andante tranquillo-vivace)
ヘ長調。シンプルなロンド形式。
Andante主題は、第1楽章の主題と類似しているように思える。
前楽章から穏やかに入るこの楽章は、短調に転じるリズミックなvivace部分とのコントラストが面白い。

3.第3楽章(Allegretto grazioso)
イ長調のロンド形式。
初めにヴァイオリンの低音に印象的なブラームスらしい旋律が現れる。
ここは艶のある音が必須な部分だ。
正に「歌」うヴァイオリンであり、ピアノは和声での応答に傾く。


<今日の一枚>
さて、今日はこのロマンティックなブラームスのソナタを誰で聴こうか。
女王アンネ=ゾフィー・ムターに登場願おう。
かつてカラヤンに愛された天才少女もすっかり完成されたヴァイオリニストになった。
このムターのブラームスは、折り目正しいシェリングとは異なり、オイストラッフのように愛情に満ち、叙情的で、この曲の持つロマン性を艶やかに歌っている。
このCDは、ブラームスの魅力的なヴァイオリンソナタの全てを楽しむことが出来る。

■ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ(全曲)
 アンネ=ゾフィー・ムター(Vn.)、ランバート・オーキス(Pf.) 

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2014.11.22 Sat l ブラームス l コメント (4) トラックバック (0) l top
最近、なんとか自宅に居られる時間が持てるようになりましたので、またブログの記事を書かせて頂こうかと思っております。
中途半端になってしまったホルストは一回パスして(CD発見できず・・)、このところ嵌っていたブラームスあたりから・・・。
2014.11.16 Sun l 未分類 l コメント (2) トラックバック (0) l top