★ シューベルト ピアノ五重奏曲イ長調 『鱒』 ★
今日はシューベルトの鱒でいこう。
ピアノ五重奏曲 イ長調 D667,(Op.114) は、シューベルトがまだ若い22歳の頃の幸せな作品だ。
この曲は5楽章構成なのだが、第4楽章が自作の歌曲「鱒」から主題を取った変奏曲の為『鱒』(Trout)というタイトルで呼ばれている。

小学生の頃、音楽の時間にこの曲のことを友人が「たる」と呼んでいたのを思い出す。
(惜しい!うん、樽と言えばクロフツにそんな名作があったぞ、と当時海外物の推理小説を読み耽っていた私は思ったものだ)
勿論、これはお魚の「ます」だ。

この原曲である、歌曲「鱒」は正に漁師と鱒のお話で、とても実も蓋も無い言い方をすると

「綺麗な小川で泳いでる鱒を見ていたら、それを釣り人が獲ろうとしていた。
こんなに澄んだ水ならば、あの釣り人の針にかかることはあるまいと 見ていたら
釣り人は、川を掻き混ぜて濁らせて鱒を捕まえてしまった。」

という内容である。
だが、このシューバルト(Schubart:シューベルトではない)の詩には続きがあって、この鱒のお話を、若いお嬢さんへの男性の誘惑に喩えて教訓めいた結びになっている。
このフレーズをシューベルトがカットした理由は判らないが、歌曲なので俗世的な教訓まで落ちを付けるのを避けたのだろう。

〇 編成 〇
ピアノ五重奏曲は通常ならば、ピアノ+弦楽四重奏(第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ビオラ、チェロ) というのが一般的だが、この曲は第2ヴァイオリンの代わりにコントラバスが入っている。
それにははっきりした理由がある。
そもそもこの曲の作曲をシューベルトに依頼したのは、ジルヴェルター・パウムガルトナーという鉱山技師だそうで、この人はチェロを趣味にしていたようだ。
恐らく自分がチェロを演奏することを前提に、コントラバスの通奏低音をバックにチェロがメロディラインや内声部を奏でる様な活躍を望んだのだろう。
(このとても良く出来たお話は、原典がどうもはっきりせず、真贋の程定かではないと付記しておきます)

〇 第4楽章 変奏曲 〇
この曲の第4楽章が有名な「鱒」の変奏曲だ。
まず、弦楽器であの美しい主題が提示される。
原曲のリートは変ニ長調だが、ここではヴァイオリン属用にニ長調に移調されている。
第1変奏では主題提示で沈黙していたピアノが活躍する。
ここでのピアノは所謂両手ユニゾンが目立つ。(ここだけでは無いのだが)
その為、ピアノの奏でるメロディは大変訴求力があって、弦楽に負けない力強さを持っている。
(ピアニストには難曲だが)

このように、この楽章では各楽器が主役の座を持ち回りながら、魅力的な変奏曲(第6変奏まで)を作り上げていく。

〇 スリリングな第1楽章 〇
この曲は歌曲「鱒」を主題にした第4楽章が余りにも有名であるし、リズミックで溌剌とした第3楽章との対比などまことに素晴らしいのだが、私は第1楽章を一番好んでいる。
この楽章、最初からまるで見得を切るかのように主和音の強奏で始まる。
アンサンブルの中でのこの手法はベートーヴェンを髣髴とさせる。
(ベートーヴェンで言うと、弦楽四重奏よりもやはりピアノが入る「大公」のイメージ)
ソナタ形式で書かれたこの楽章はイ長調で始まるのだが、いきなり転調し始める。
それも秘めやかに・・・。
シンプルな主題が各楽器で歌われるのだが、展開部ではコントラバスのソロが入ったりする。
ジャズじゃあるまいしなどと仰る無かれ。
コントラバスが入った為に、チェロとピアノが通奏から開放されて、ピアノなど左手もかなり高音で頑張っている。
編成の妙も相俟って、各楽器が実に活き活きとスリリングなアンサンブルを聞かせてくれるのが、この曲の特徴であり、中でもこの第1楽章が素晴らしいと思っている。


<今日の一枚>
この曲は、本当に様々な四重奏団やピアノと弦楽の組み合わせで録音が残されている。
好みも非常に分れる曲だと思う。
私は特にピアノの透明感が欲しいと思っている。
清流を鱒が泳いでいくイメージ・・。
そこで、今日はリヒテルでいく。
■シューベルト:ピアノ五重奏曲「鱒」
 スヴャトスラフ・リヒテル(p)/ボロディン弦楽四重奏団員(ミハイル・コペルマン ドミトリー・シェバーリン ヴァレンチン・ベルリンスキー)/ゲオルク・ヘルトナーゲル(cb) 1980録音

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<推薦盤1>
今日の一枚のリヒテルは明らかに私の推薦盤だが、ブレンデルもいい!
若い弦楽をブレンデルが纏めている感じのアンサンブルだが、非常にバランスも拮抗感も程良くて、心地よいのだ。
■シューベルト:ピアノ五重奏曲<ます>/モーァルト:ピアノ四重奏曲第1番
アルフレッド・ブレンデル(P),トーマス・ツェートマイアー,タベア・ツィンマーマン,リヒャルト・ドゥヴェン,ペーター・リーゲルバウアー

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2013.08.07 Wed l シューベルト l コメント (0) トラックバック (0) l top

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