★ ベートーヴェン 交響曲第3番 『英雄』 ★
今日は、大ベートーヴェンのシンフォニーの中でも中期の始まりを飾る傑作『英雄』を聞こう。
ベートーヴェンは生涯において、全部で9曲のシンフォニーを完成させているが、全てが素晴らしく独創的なアイディアに満ちている。

〇 英雄 〇
さて、この英雄と言うニックネームだが、これに関する逸話は子供の頃から色々と聞いてきた。
一番有名なお話が、

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時はフランス革命後の混迷するヨーロッパでのことであり、ベートーヴェンはナポレオンを『自由の戦士』と尊敬していた。そこでナポレオンに捧げるべくこの雄大なシンフォニーを作曲し表紙にはナポレオンへの献辞を記した。
しかし、ナポレオンが帝位に就くと
「おお!奴も所詮俗人に過ぎなかったか。これから、人々を踏みにじり誰よりも暴君になるであろう!」(という感じ)
と叫んで、既に出来上がっていた第3シンフォニーの表紙を破り捨てた。
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というものである。
子供の頃より永らく、私の中ではこれが真実であったが、どうやらこれは怪しい・・。
そもそも、ウィーン学友協会に現存する浄書スコア(自筆譜は紛失)にはちゃんと表紙が付いているし、怒り狂って破り捨てた形跡は無い。
代わりに、「ボナパルト」という献辞が消され、イタリア語で加筆されている。
『 Sinfonia eroica,composta per festeggiare il sovvenire d'un grand'uomo 』
(英雄的な交響曲、ある偉大な人間の思い出に捧げる)

非常に短気で一徹であったベートーヴェンらしい過激な逸話だが、実際には「ボナパルト」の文字はかなり感情的に消された形跡があるが、その程度であり、むしろ彼は生涯に渡ってナポレオンを尊敬していたというお話も聞いたことがある。

〇 作曲の経緯 〇
このシンフォニーが作曲されたのは、1803年~1804年なのだが、ベートーヴェンがナポレオンに捧げるシンフォニーを書こうと思ったきっかけは、1795年頃にウィーン駐在であったフランス公使ベルナドット将軍から『ナポレオンに新作を献呈しては』との薦めによるものだという。
だがしかし、この話は例の悪名高い伝記作家シントラーによるもので、作り話ではないかと言われている。
つまり、良く判っていないのだが、ベートーヴェンがナポレオンをフランス革命の精神を受け継ぐ英雄だと信じていたことは疑いなく、そうした気持ちを彼があらわす方法がこの献辞であったことは間違いないだろう。

〇 第3番『英雄』の特徴 〇
さあ、この曲にはベートーヴェン自身第1番、2番からの飛躍的な変化があるのだが、その目立った特長を私なりに挙げると

・冒頭は終結を思わせるトゥッティ2連発
・第1楽章の異様なほど長い展開部
・第2楽章は葬送行進曲
・スケルツォ楽章の確立(第3楽章)
・第3楽章のトリオでのホルン3重奏
・終曲は展開部とコーダを持った7つの変奏曲

〇 第1楽章(Allegro con brio) 〇
冒頭は少しびっくりする。
この主和音2連発は、この後にもう一つしかるべき和音を鳴らせば目出度く終われるものだ。
その後、チェロに第1主題が現れるが、このシンプルな主題はこの楽章の中で手を変え品を変え様々な貌を見せてくれる。
短い第2主題の提示のあと、コデッタを経て展開部に入る。
この展開部が異様なほど長いのだ。
200小節を優に超える展開部では、提示した主題をどんどん展開して行き、まるで永遠に膨れ上がっていくかのようだ。
コーダも第2展開部と言えるほど長いもので、この楽章全体が雄大な量と質を誇る楽章に仕上がっている。

しかし、私はこの楽章はベートーヴェンの腕力でグイグイ進んでいく印象が強くて、葬送行進曲や全体構成の点からは少し平衡感に欠けるような気がしている。
この異様な長さの展開部も、モーツァルトの後期シンフォニーなどと比べると、楽章間のバランスを崩しているようにも感じるのだ。
だが、この力技こそベートーヴェンがハイドンやモーツァルトの影響からの脱皮や、少し前にハイリゲンシュタットの遺書まで書いて尚生還した己の病苦への宣戦布告など、そうした自分を取り巻く殻を破った原動力なのだろう。

〇 第2楽章(Marcia funebre: Adagio assai) 〇
ここはハ短調の葬送行進曲。
ここが何故葬送行進曲なのか?
ナポレオンへの献辞があったからと言って、これを「英雄の死」=ナポレオンの死 と捉えるのは、全体を標題音楽と考えることに繋がっていくことにもなって、少し違うだろう。
私はもっと観念的な「葬送」のように考えている。
第1楽章が「英雄(思想)」の勇壮な戦いを象徴しているとしたら、第2楽章はその戦いには常に(英雄自身や英雄思想も含めて)「死(崩壊)」があるというような観念的な音楽表現。

〇 第3楽章(Scherzo: Allegro vivace) 〇
通常はメヌエットなどの舞曲が置かれることが多かった第3楽章に、ベートーヴェンは第2番のシンフォニーからスケルツォを置くようになっていた。(実は第1番もメヌエットとはなっているが実質的にはスケルツォ)
スケルツォの原意はイタリア語で冗談やおふざけを意味するそうで、日本語ではよく諧謔曲と呼ばれたりする。
音楽で使われる際には、原意を離れて、第2楽章の緩徐楽章と対照的な「テンポの速い曲」「リズミックな曲」を意味しているように思う。
結果的にメヌエットのように舞曲的であったりもする。
この第3楽章にはトリオで、ちょっと珍しいホルンによる3重奏がある。
この為の3本ホルンのオーケストラ編成になっている。

〇 第4楽章(Finale: Allegro molto) 〇
ここは変奏曲形式で、主題と7つの変奏曲からなっている。
2つの展開部とコーダを変奏に含めれば、10の変奏とみることもできる。
この主題は、バレエ音楽『プロメテウスの創造物』のフィナーレ舞曲からのもので、それをベートーヴェンは大変シンフォニックで巧みな変奏曲に組み上げている。


数々の画期的な試みを含んだ、勇壮な曲想のこのシンフォニーは「ベートーヴェンの」というより、全てのシンフォニーの中でも燦然と輝く正に金字塔となった。


【ベートーヴェン 交響曲第5番『運命』】
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【ベートーヴェン 交響曲第4番】
交響曲第4番
【ベートーヴェン ピアノ協奏曲第4番】
ピアノ協奏曲第4番



<今日の一枚>
英雄のベストは何と言ってもフルトヴェングラーだろう。
葬送行進曲は、弦による重く沈鬱な曲想と、フッと救われる様な木管による対比が見事だ。
第1楽章の特徴もフルトヴェングラーならばこその「腕力」がとても魅力的だ。
1952年の録音の割には音質も良い。(スタジオ録音)
■ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
 ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1952年録音盤

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<推薦盤1>
私の第1の推薦盤はフルトヴェングラーだが、バーンスタインがウィーンフィルを振った盤も、ある意味素直な音楽創りでいつもの癖が無くて流麗だ。
大きなスケール感をもって、この曲に立ち向かっている好演だと思う。
これは全集にもなっている、バーンスタインのライブ盤。
■ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」、「レオノーレ」序曲第3番
 レナード・バーンスタイン指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

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<推薦DVD>
「カラヤンの遺産」と銘打ったDVDがある。
これはベルリン・フィル創立100周年を記念して行われたコンサートの模様を収録したDVDで迫力たっぷりのカラヤン+ベルリン・フィルの熱演が楽しめる。
私はベートーヴェンの交響曲全集もカラヤンのものを良く引っ張り出すが、このDVDもスタイリストのカラヤンが観れる貴重なものなので演奏会気分で音楽に浸りたい時にはこれだ。
■Karajan / Beethoven : Symphony No.3“Eroica” - Jubilee Concert 100 Years 1882-1982 [DVD] [Import]
国内盤は、仲介業者によって値段の吊り上げが行われているため、このインポート盤がお奨めだ。
日本語表示に拘らなければ、こちらが安くてお得だ。

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2013.06.18 Tue l ベートーヴェン l コメント (0) トラックバック (0) l top

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