★ チャイコフスキー 『四季』 作品37b ★

今日楽しんだのは、先日も登場頂いた「ギャラリー薔薇ねこ館」さんのご提案で、チャイコフスキーのピアノ曲『四季』だ。
漸く暖かくなって春を感じるこの頃だが、太陽の光が生気を帯び、私の部屋から見える何と言うことの無い風景すら、ルノワールの描いたセーヌ河の河畔風景に見える(う~ん、かなり無理があるか・・)から不思議だ。
そんな頃に聴くにはうってつけの季節感溢れる曲集だ。
『ギャラリー薔薇ねこ館』

チャイコフスキーと言うと、真っ先に思い浮かぶのがバレエ音楽(「白鳥の湖」「くるみ割り人形」等)やシンフォニー(特に4番~6番)そして、ピアノとヴァイオリンのコンチェルトなどかも知れない。
だが、ピアノの為の小品も結構な数を遺している。
折に触れて作曲されたピアノ曲を纏めて「6つの小品」というように構成されたものがいくつかあったりするが、現在最も親しまれているチャイコフスキーのピアノ独奏曲はこの『四季』だろう。

〇 「Nouvelist」の企画 〇
1875年にペテルブルクで創刊された音楽雑誌「Nouvelist」で、1月~12月の各月にマッチしたロシアの詩をチョイスして、その詩に合わせた曲を連載するという企画があり、チャイコフスキーに作曲が依頼された。
チャイコフスキーは1875年の12月から1876年の11月にかけて12のピアノ曲を書き上げ、それは後日『四季』として出版されることになった。

〇 『四季』 〇
曲は次の12曲から成る。
全体としては、各曲3部形式で書かれたシンプルな構成で、1月から2月が下属調、3月から4月が平行調、6月から7月及び8月から9月が下属調平行調というように曲間の調性連携も全体の統一感を考えて整えられているのだと感じる。
(春夏秋冬で捉えるのが正しいのかも知れない)

1.1月<炉端で>
(イ長調、3/4拍子)
1月のプーシキンの詩は、こんな感じだった。
穏やかな幸せの一隅
夜は黄昏に包まれたしまった
暖炉の火が少し弱まり
蝋燭の火は燃え尽きてしまった
(Alexander Pushkin, 1799-1837)


ロシアの冬は雪に閉ざされて、家の中で暖をとるひと時が至福の時間でもあるのだろう。
何とはなしに物思いにふける風情の音楽かと思うが、穏やかに始まる曲集の劈頭、単調に陥らない温もりが必要だ。
3部形式の中間部では、転調を繰り返しながらの分散和音で、暖炉の炎のゆらめきとそれが浮かび上がらせる室内の情景を描いているように思える。

そして最後の和音4連打のところで、「蝋燭は燃え尽きた」は表現されていると思うので、ここは余韻を持って「フッ」と消える炎を表現する演奏が好きだ。

2.2月<謝肉祭>
(ニ長調、2/4拍子)
謝肉祭の喧騒と、活き活きとした人々の様子が描かれている。

3.3月<ひばりの歌>
(ト短調、2/4拍子)
当時のロシア暦は陰暦だったと思うので、4月頃のひばりの歌だ。
とても美しいメロディで歌われるフランス的なひばりの歌だと感じる。
しかもト短調だ。

4.4月<松雪草>
(変ロ長調、6/8拍子)
松雪草は雪解けに咲く花だそうだが、チャイコフスキーは春の訪れをシューベルト的な息の長いメロディでメンデルスゾーンのように歌わせている。
それでも私は全体としてはサティっぽい音を感じる。

5.5月<白夜>
(ニ長調、8/9拍子)
安らぎに満ちた白夜が神秘的な旋律で歌われる。
中間部は2/4拍子で少し浮き浮きと初夏らしさが表現されている。

6.6月<舟歌>
(ト短調、4/4拍子)
この曲集の中で、11月のトロイカと並んで単独でもよく演奏される有名な曲だ。
さすがは稀代のメロディメーカーであるチャイコフスキー、大変叙情的なメロディが印象的だ。
舟歌というと、ショパンやフォーレが浮かんでくるが、チャイコフスキーのそれは最もメランコリックで、私には夜のバルカロールだ。

7.7月<刈り入れの歌>
(変ホ長調、4/4拍子)
草刈人の歌とも言われるが、真夏の草刈風景だろう。
7、8月は風景というよりも、喜びに満ちて働く「人」に視線が当たっているように思う。
力感溢れる主部に始まって、舞曲風の中間部にしても力強く働く人々が浮かんでくる。

8.8月<取り入れ>
(ロ短調、6/8拍子)
秋が訪れて、忙しい収穫の歌だ。
何故かロ短調だ、些か取り入れに焦っている感じだろうか。
中間部では収穫時の忙しさの中の束の間の休息だろう、ゆっくりとお茶でもしている風情。

9.9月<狩り>
(ト長調、4/4拍子)
狩りは、大変勇壮で胸を張った狩人が歌われているようだ。
トランペットやホルンといった金管を思わせる響きが、狩りの緊張と獲物へ向かう勇気の鼓舞を良く現している。

10.10月<秋の歌>
(ニ短調、4/4拍子)
センチメンタリズムの王様と言ってもいいチャイコフスキー。
この秋の歌は12曲中最も、そうしたチャイコフスキーの特性が表に出た曲だろう。
最初の一音から美しい、いや美しくたっぷりと弾かなくてはならない、出だしが重要な曲だ。
中間部では、やや立ち直るものの、憂鬱な足取りは消えはしない。

11.11月<トロイカ>
(ホ長調、4/4拍子)
このトロイカも舟歌同様、単独で演奏される機会の多い曲だ。
曲調的には10月までとは一線を画している感があるように思う。

この曲はあのラフマニノフが愛したことでつとに有名だ。
ラフマニノフは10代の頃に音楽教師であるニコライ・ズヴェーレフの自宅に住み込んでいたそうだが、そこをチャイコフスキーが訪れる機会があったようだ。
ズヴェーレフの誕生パーティの際にチャイコフスキーも招かれ、その席上でラフマニノフがこのトロイカを演奏したそうだ。
そうした関係でチャイコフスキーに大変可愛がられた才能溢れる若者は、以来このトロイカを愛奏したという。

1920年のラフマニノフの録音を聴いたことがあるが、ノイズの先から聞こえるそれは、表情をたっぷりつけたとてもロマンティックな演奏だった。
そしていかにもヴィルトゥオーソらしい卓越した演奏だった。(確かに上手い!)

12.12月<クリスマス>
(変イ長調、3/4拍子)
これも美しくメランコリックなワルツだ。
来る年への希望をこめて、少女たちがクリスマスを祝う軽やかなワルツなのだろう。
旋律線の移り変わりがとても印象的なワルツだ。


〇 6人組にはならなかったチャイコフスキー 〇
この『四季』は上述のように、ロシアの自然溢れる情景や農民の暮らしに愛情のこもった視線を当てたピアノ曲だ。
この曲集を聴くといつも思うのは、チャイコフスキーもやっぱりロシアという土地を、そして人を愛していたんだなぁということだ。
チャイコフスキーもロシアの民族音楽から曲調を発想したり、思い切りメランコリックなロシアの香りたっぷりな音楽を書いている。
例の「悲愴」の第2楽章での5拍子などの変拍子も民族音楽に由来するものだ。

だが、当時のバラキレフを中心に活動した所謂「ロシア5人組」とは、やはり本質的に違う音楽だと感じる。
この『四季』でも、チャイコフスキーが志向した音楽は、ロシアの香りを身に纏ったフランス的な音に思えてならない。
そして、私はそんなチャイコフスキーが大好きだ。


<今日の一枚>
以前はよくミハイル・プレトニョフのCDを聴いていたのだが、今日はトロップでいきたい。
ピアノ教師としても有名なウラジーミル・トロップはロシアのピアニストでラフマニノフの研究家でもある。
2010年のショパンコンクールで優勝したユリアンナ・アヴデーエワさんの先生でもある。
そして、このチャイコフスキーの四季は得意のレパートリーだ。
大きなストロークでピアノを鳴らしきるロシアのピアニストの中では、珍しく繊細なピアニズムを有したピアニストといっていいだろう。
この「四季」でも、ロシアの色はちゃんと漂わせながらも繊細なタッチで、そっと囁く様なパッセージを聞かせてくれるのだが、これが随所で嵌っている。

■チャイコフスキー:四季/ラフマニノフ:幻想的小品集 [Blu-spec CD]
 ウラジーミル・トロップ(Pf.)

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2014.03.23 Sun l チャイコフスキー l コメント (2) トラックバック (0) l top

コメント

こんばんは
今日はチャイコフスキーですねe-343
交流のあるブロガーさまが、昨年クリスマスころに「12月」の音源をアップされていました。クリスマスの日の街で、ツリーやイルミネーションを背景に人々が行き交う様の映像とセットでしたので、粋な雰囲気が感じられて素敵でした。

赤影さまの「1月」でのお話やまとめのお話にありましたが、チャイコフスキーの曲(特に大曲などを聴くと)は、ロシアの雪に閉ざされた厳しい冬、その中で暖をとる至福の時間、雪解けを待つ希望、春の到来の喜び、そんな風を感じます。
ラフマニノフのコンチェルトもそんな風に聴いてしまいます(独断ですけど^^;)。

自然の風情はただそうあるだけなのに、自分の想いを重ねると味わい深いですね。
はやく暖かくなってほしいな~。

私の住む海の町は、イタリアの漁港、近くの神社はイタリア遺産、地区の集会所は大聖堂、我が家はお城?(これも無理が、、、笑)
2014.03.25 Tue l レディピアノ. URL l 編集
Re: こんばんは
こんにちは!(^^)

コメントありがとうございます。(^^)/
なるほど、レディピアノ さまのお仲間も、素敵なブログを書いておられるのですね。
センスの良い方が集まっておられるのですねぇぇ。(私以外ですが(笑))

そうですね、チャイコフスキーの季節感では、やはり厳しい冬があるのでしょうね。
それを中心に春の喜びが浮き立ってくる、そういう環境なのでしょうね、ロシアは。

>自然の風情はただそうあるだけなのに、自分の想いを重ねると味わい深いですね。
そうそう、さすが表現者ですね。(^^)
素敵な感性だと思います。

レディピアノ さまの大邸宅は「お城」でOKです。(^^)

丁寧なコメントを頂きまして、ありがとうございました。(^^)
2014.03.25 Tue l ★赤影★. URL l 編集

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