★ ハイドン ピアノソナタ Hob.XVI:44 ト短調 ★

12月は仕事がハードで、いつも欠かさず拝見している方のブログを訪問するのがやっとで、自身の更新は放棄していた。
漸く仕事納め、少しゆっくりしたい・・・。

そこで、今日はバッハとハイドンで身体の芯から癒そうと思った。
ハイドンのこのト短調のソナタは、所謂ホーボーケン番号で16/44、ランドン版の番号で言えば32番ということになる。
作曲年代については定かではないようだが、1770年頃だと言われている。
私には一瞬スカルラッティにも聴こえる、このト短調ソナタが好きで度々聴く。

〇 程好いメランコリック 第1楽章 〇
ト短調、ソナタ形式で書かれたこの楽章は、繰り返しも特徴的で第1主題のト短調のメロディが支配的な楽章だ。
スカルラッティの短調のソナタを彷彿とさせるこのメランコリックさは、長調へ転調する際の心地よさも相俟って、私には本当に程好いため息に聴こえるのだ。
シンコペーションやハイドンらしいトリルも大変効果的で、とても優雅だ。

〇 躍動的な 第2楽章 〇
この楽章もト短調、第1楽章のメランコリックを受け継ぎながら、躍動的な主部を持つコーダ付きの三部形式か。
中間部で二長調に転調する変貌が美しい。
旋律線は徐々に流麗な線を描き出し、締めでは短調の余韻を残しながらも長調で喜ばしく終わる。

〇 村上春樹氏 「1973年のピンボール」 〇
この曲は、実は村上春樹氏の2作目の長編である「1973年のピンボール」に登場している。
私は、自分が愛聴していたト短調ソナタがこのような形で文学の中で生命を与えられるのを不思議な感動で迎えていた。


僕があぶなっかしく積み上げられたバリケードがわりの長椅子をくぐった時には、ハイドンのト短調のピアノ・ソナタがかすかに聞こえていた。山茶花の咲いた山の手の坂道を上り、ガール・フレンドの家を訪ねるときのあの懐かしい雰囲気そのままだった。
(村上春樹氏『1973年のピンボール』から)


山茶花の咲いた山の手の坂道・・・、閑静な住宅地の瀟洒な家々が立ち並ぶ坂道を、彼女の邸宅に向かって登っていく。
赤い山茶花に彩られた垣根には柔らかい午後の日差しが静かな陰影を作っている。
懐かしい青春の1ページ。


<今日の一枚>
今日はリヒテルの確かなテクニックに支えられた叙情的なハイドンを聞こう。
フォルテピアノでの演奏も勿論良いのだが、モダンピアノでの深みのある音色でのハイドンも良いものだ。
■ハイドン:ピアノソナタ第40番&41番&44番&48番&52番
 スヴャトスラフ・リヒテル(Pf.)

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<推薦盤1>
ハイドンのピアノソナタは、あまり人気のあるものではないので、CDのチョイスも限られてくる。
しかし、ヴァルター・オルベルツの全集は素晴らしいものだ。
非常に洗練された演奏で、ハイドンのソナタの楽しさや良い意味での「軽み」を表現していると思う。
全集という大仕事を見事に遣り遂げてくれている。
■ハイドン:ピアノソナタ全集
ヴァルター・オルベルツ(Pf.)

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2013.12.30 Mon l ハイドン l コメント (8) トラックバック (0) l top
★ ベートーヴェン ヴァイオリンソナタ第9番『クロイツェル』 ★

今日は久し振りにベートーヴェンのイ長調 作品47 クロイツェルソナタを聞こう。
ベートーヴェンは全部で10曲のヴァイオリンソナタを書いているが、この曲はその9番目に当たるもので、恐らくあらゆるヴァイオリンソナタの中で最も高みに存在していると思うソナタだ。
この曲が作曲されたのは1803年で、青年ベートーヴェンの勢いが曲に反映されているように思う、シンフォニーで言えば2番やあのエロイカが作曲された頃だ。
かと思えば、一方では有名なハイリゲンシュタットの遺書を認めたりしていた時期でもあり、ベートーヴェンの病状は精神状態も含めて、揺れ動いていた頃でもある訳だ。

この曲は実はイギリスのヴァイオリニストであるジョージ・ブリッジタワーの演奏会用に作曲されたようだが、ブリッジタワーがベートーヴェンの知人女性を侮辱?したという事件の為に、急遽フランス人であるルドルフ・クロイツェルに献呈者が変更された。
しかし、当のクロイツェルは「演奏するには難し過ぎる」「既に初演を終えている」などの理由から、決してこの曲を演奏することは無かったようである。
なかなか、うまくいかないものだが、この曲の素晴らしさは後世が認めることになる。


〇 予感の序奏 〇
この第1楽章冒頭、ヴァイオリンの堂々とした重音から始まるのだが、私はこの序奏を聴くと何か只事ではない事が始まるような慄きを感じる。
主調の重厚な和音から始まる序奏を経て、ソナタ形式で書かれた主部はイ短調に転じる。
3拍子のリズミカル(重めの主題だが)な第1主題が呈示されてヴァイオリンとピアノの応酬を経て、ホ長調に転調して穏やかな第2主題が現れる。
コデッタではピアノのテーマの繰り返しにヴァイオリンのピチカートがとても効果的だ。
この辺り、やはり素晴らしいと思う。
ヴァイオリンとピアノの機能的な音の重ね方が実に巧みだ。(当たり前だが・・)

〇 穏やかな第2楽章 〇
変奏曲形式の穏やかな曲調を持つ第2楽章。
かなり長めの主題をヴァイオリンとピアノで交互に或いは協調して、魅力的な変奏曲を作り上げていく。
こういうゆったりした旋律ラインを合わせるのもかなり難しい、演奏者の息の合ったアンサンブルの聞かせどころだ。

〇 タランテラ 〇
終楽章ではタランテラがお目見えする。
主調に戻ったソナタ形式なのだが、メンデルスゾーンのイタリアでもご紹介した舞曲タランテラのリズムだ。
イ長調の主和音がピアノに出て、直ちにヴァイオリンがタランテラのリズムで第1主題を奏でる。
この楽章ではこの主題が支配的なのだが、コデッタでは緩徐的なフレーズを挿入したり、激しいリズムで単調になることを避けている。
この緩急も見事な楽章だ。


<今日の一枚>
このソナタでは私の愛聴盤はフランチェスカッティとカサドシュの盤になる。
このフランス人のコンビは実に格調高く、しかも慈味溢れる演奏を聞かせてくれる。
ベートーヴェンのヴァイオリンソナタの場合、ピアノは単なる伴奏ではなく、カサドシュが力強いパッセージを聞かせながらとても上品だ。
フランチェスカッティのヴァイオリンは勿論、持ち味の「美音」に加えて、重音の張りのある堂々とした風格やヴァイオリン独特の哀愁を感じる弱音など、非の打ち所が無いと感じている。
こちらは『春』とのカップリング盤だ。
■ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第5番「春」、第9番「クロイツェル」
 ジノ・フランチェスカッティ(Vn.) ロベール・カサドシュ(Pf.)

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<推薦盤1>
私のイチオシは上記のフランチェスカッティ&カサドシュ盤だが、さらに挙げるとしたらクレーメル&アルゲリッチだろう。
クレーメルとアルゲリッチの雄弁さが、大変な緊張感の中で、スケール大きくベートーヴェンを語る。
中でもアルゲリッチの存在感の大きさを感じる盤だ。
こちらも『春』とのカップリング。
■ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第5番「春」、第9番「クロイツェル」
 ギドン・クレーメル(Vn.) マルタ・アルゲリッチ(Pf.)

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2013.12.06 Fri l ベートーヴェン l コメント (6) トラックバック (0) l top