★ モーツァルト 交響曲第25番 ト短調K.183 ★

今日は爽やかにモーツァルトから始めることにした。
ディヴェルティメントでも良かったのだが、25番に手が伸びた。

Sturm und Drang(独)、日本語では「疾風怒濤」と訳されているが、これはゲーテの『若きウェルテルの悩み』などの作品に代表される、18世紀の文学運動のことだ。
ウィーンでこの流れを肌で感じたモーツァルトが作曲した曲がこの25番ト短調のシンフォニーだ。
当時まだ若干17歳の青年は、後に創作することになる弦楽五重奏曲第4番ト短調K.516やレクイエムニ短調K.626、そしてピアノ協奏曲第20番ニ短調K.466、交響曲第40番ト短調K.550などの短調で作られた傑作への兆しを、この小気味の良いシンフォニーで音楽史に刻み付けているのだ。

〇 映画「アマデウス」 〇
大分前の映画になるが、アカデミー賞を8部門で受賞した映画「アマデウス」で冒頭サリエリの自殺未遂?のシーンで、この曲の第1楽章が使われていた。
ちなみにこの映画のお陰で、アントニオ・サリエリさんはすっかり悪者になってしまった感がある。

〇 印象的な第1楽章 〇
この曲では、まず第1楽章Allegro con brio のシンコペーションを巧みに使った、何か急き立ててくるような緊張感の溢れるメロディが印象的だ。
このメロディが映画「アマデウス」でも効果的に使われており、一度聴くとなかなか忘れられない旋律だ。
このシンフォニーでは、冒頭のこの部分が正に「疾風怒濤」に相応しい箇所であり、演奏でもここをどう表現するかが大変重要になってくる。

〇 型通りに進む 〇
そして、第2楽章アンダンテ、第3楽章メヌエット、第4楽章アレグロ、とある意味型通りに曲は展開していき、第3楽章以外は全てソナタ形式で、調性は第2楽章(下属調平行調の変ホ長調)以外は全てト短調。
モーツァルトの中でも全体として、まだこじんまりした印象の曲ではあるが、私は愛らしいアンダンテもきりっとしたメヌエットもとても好きだ。
特にこのメヌエットはモーツァルトの短調の音楽らしく、情緒と美しさをもっており、ト長調の中間部との対比が素晴らしい。

〇 編成 〇
オーケストラの編成は、オーボエ2、ファゴット2、ホルン4、弦五部という小編成で、ディヴェルティメント風の弦が中心のアンサンブルになっている。
短調ということもあり、ホルンは4本編成で工夫している。


<今日の一枚>
今日は映画アマデウスでも指揮法の指導をしたという、サー・ネヴィル・マリナーでいきたい。
第1楽章は「疾風怒涛」というほど突っ走らないのだが、とてもバランスの良い緊迫感を作っていると思う。
さすが、モーツァルトの第1人者である。
■モーツァルト : 交響曲第25&29番、「アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク」
 サー・ネヴィル・マリナー指揮 アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ

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<推薦盤1>
ブルーノ・ワルターがウィーン・フィルを振った名演が遺されている。
この25番は1956年ザルツブルク音楽祭のライブ盤だ。
ライヴならではの臨場感と、正に「疾風怒濤」のテンポで飛ばすワルターの入魂の演奏は一聴の価値がある。
■モーツァルト:交響曲第25番&第40番
 ブルーノ・ワルター指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

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<推薦盤2>
古楽器による爽やかな演奏も捨て難い。
ピリオド楽器による独特の軽みと風情を愛している方にはお勧めできる演奏だと思う。
■モーツァルト : 交響曲第25番、第29番&第33番
 トン・コープマン指揮 アムステルダム・バロック管弦楽団
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2013.10.27 Sun l モーツァルト l コメント (6) トラックバック (0) l top
★ ヴィヴァルディ フルート協奏曲ニ長調RV.428 『ごしきひわ』 ★
今朝は爽やかな鳥の声で行こう、バロックの雄アントニオ・ヴィヴァルディだ。
ヴィヴァルディは生涯に実の多くの協奏曲を遺してくれているが、この『ごしきひわ』というネーミングで知られるフルート協奏曲は、アムステルダムのル・セーヌ社からの依頼でヴィヴァルディが作曲し、作品10として纏められた6曲の曲集の3番目の協奏曲だ。

〇 ごしきひわ? 〇
ゴシキヒワとは勿論、鳥の名前だ。
ヨーロッパを中心に生息する小型の鳥で、日本では主にペットとして輸入されているそうだ。
植物にも鳥にも弱い私は、どこかで見ているのかもしれないが確実な記憶は無い。
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可愛い鳥だ。
そう、この曲はこの小鳥の囀りをフルートの音色で模した曲という訳だ。

〇 聴き所 〇
この曲の聴き所はずばり、ゴシキヒワを模したというフルートの音色だ。
特に第1楽章のリトルネッロ主題の呈示の後のフルートのカデンツァ。
ここが最大の聴き所であり、独奏フルートの腕の見せ所だろう。
正に鳥の囀りそのものだ。

第2楽章のイタリアのヴィヴァルディらしい、思い切りシチリアーナの6拍子と踊るような付点リズム。
ここでの通奏低音に乗ったフルートの歌謡は秋の朝にはぴったりだろう。(本日は生憎曇天だったが・・)

〇 合奏編成 〇
この協奏曲は、独奏フルートと弦楽合奏というこじんまりした編成で、
独奏フルートにヴァイオリン(第1、第2)、ヴィオラ、そして通奏低音(チェロ、コントラバス、チェンバロ)
というものだ。



<今日の一枚>
今朝は高木綾子さんのフルートに癒された。
これは所謂flauto traversoでは無く、モダンフルートでの演奏だったと思うが、新イタリア合奏団とイタリアで録音というようにイタリアに拘ったアルバムで、高木さんの温かいフルートの音色がとても清々しい。
■イタリア
 高木綾子(Fl.) 新イタリア合奏団


【曲目】
1. フルート協奏曲ニ長調op.10-3,RV.428「ごしきひわ」(ヴィヴァルディ)
2. 協奏曲ニ短調~アダージョ(A.マルチェッロ)
3. フルート協奏曲ト短調op.10-2,RV.439「夜」(ヴィヴァルディ)
4. フルート四重奏曲第6番~アンダンテ(チマローザ)
5. 「ウィリアム・テル」の主題による幻想曲(ロッシーニ)
6. 序奏とアレグロ(ドニゼッティ)
7. 「椿姫」の主題による幻想曲(ヴェルディ/ブリッチャルディ)
8. 映画「荒野の用心棒」~ララバイ(モリコーネ)
9. 映画「ミッション」~ガブリエルズ・オーボエ(モリコーネ)
10. 協奏曲ニ短調op.9-2~アダージョ(アルビノーニ)

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<推薦盤1>
なんと言っても、イ・ムジチならば定番的な安心感するある。
その上手さは、今更お伝えするまでも無いと思うくらいだ。
■ヴィヴァルディ / フルート、オーボエ、バスーン協奏曲集 [Limited Edition]
 演奏: イ・ムジチ合奏団, ニコレ(オーレル), ホリガー(ハインツ), トゥーネマン(クラウス), ハーデンベルガー(ホーカン)他


【曲目】
1. フルート協奏曲第1番ヘ長調RV.433「海の嵐」
2. フルート協奏曲第2番ト短調RV.439「夜」
3. フルート協奏曲第3番ニ長調RV.428「ごしきひわ」
4. オーボエ協奏曲ニ短調RV.454
5. 協奏曲ハ長調RV.446
6. ファゴット協奏曲イ短調RV.500
7. ファゴット協奏曲変ロ長調RV.504
8. 2つのトランペットのための協奏曲ハ長調RV.537

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2013.10.23 Wed l ヴィヴァルディ l コメント (4) トラックバック (0) l top
★ モーツァルト 歌劇『フィガロの結婚』 ★

今日はモーツァルトの傑作オペラ『フィガロの結婚』を観よう。
今日はCDではなく、DVDを楽しむことにする。
やはり、オペラは総合芸術(演劇、音楽、美術)なので、出来れば映像があった方が圧倒的に楽しめる。

ここで、総合芸術だなどと言ってしまったのに何だが、観る側の私は気楽に楽しめる舞台の一つだ。
私の場合、子供の頃からオペラは好きなジャンルの一つだったのだが、人に話すと必ず変人扱いされた。
実は「変人」は自覚しているのでいいのだが、オペラが好きだからではない。

オペラというと確かに、大きな身体の外国人が意味の解らない言葉で(外国の作品なら当たり前だが)、大仰な身振り手振りを交えながら「好きだ!」「嫌いだ」「呪ってやる」などと力一杯歌う喧しい活劇で、オーケストラやら合唱やらバレエやら、果ては繁華街全部のセットや神々の神殿まで舞台に作ってしまう大層なものだから、日本ではとっつきが悪いのは事実だ。
しかも外国のオペラハウスが日本にやって来て上演するとなると、チケットがべら棒に高い!
今では1ナイト6万円くらいは当たり前だ・・。
大物歌手に百人以上の劇団付きの合唱団・バレエ団とオーケストラ、それに大道具小道具全て運んできたらものすごい費用が掛かるのは分かるので致し方がないのだが・・。

だが、その内容となると、この世界的な傑作オペラ『フィガロの結婚』にしても、平たく言ってしまうと日本のメロドラマと何ら変わらないのである。
詰まりは愛憎劇、愛し合っている二人が結婚しようとすると、そこに嫉妬が生まれ、妙な横槍が入って、すったもんだの挙句、大団円ということだ。(あまりに、実も蓋もない言い様だが・・)


〇 実は『セビリアの理髪師』とは兄弟関係 〇
このフィガロ、原作はフランスの劇作家ボーマルシェの戯曲「狂乱の一日- フィガロの結婚」によるもので、これは、その3年前に書かれた戯曲「セビリアの理髪師」の続編に当たるものだ。
(ボーマルシェはさらに続編である正劇「罪ある母」を書いて3部作としている)
フィガロの30年後に書かれたロッシーニの代表作『セビリアの理髪師』は、フィガロの前作の戯曲によるもので、登場人物もお馴染みのメンバーになっているのである。
詰まり、セビリアの理髪師(街の何でも屋)とはフィガロのことなのだ。

初演は1786年にウィーンのブルク劇場で行われ、その春のシーズンは無事上演され一応の成功を収めるが、その後は人気が薄れていった。
何分にも内容的に貴族社会を風刺する内容であったためにウィーンでは難しかったのだろう。
しかし、その翌年にプラハで上演されたときには熱狂的に迎えられ、モーツァルトはそのあまりの熱狂振りにプラハの国民劇場で38番のシンフォニーまでお披露目する気の入れようとなっていく。
(38番のシンフォニーはその為『プラハ』のニックネームが付いている)

〇 超あらすじ 〇
さて、ボーマルシェの戯曲を基にダ・ポンテが書いた4幕物の台本の超あらすじはこんな感じだ。

時は18世紀、場所は例の通りセビリアに近いアルマヴィーヴァ伯爵の領内。
このアルマヴィーヴァ伯爵、「セビリアの理髪師」ではロジーナ(今では伯爵夫人)に恋して、フィガロの機転でようやく結婚できた癖に、もう浮気心が湧いてきてフィガロの許婚であるスザンナ(伯爵夫人の小間使い)に初夜権を行使しようと画策している。
初夜権とは、こんなものがあったかどうか私は存じ上げないが、領主は領内の花嫁に対して結婚当日に初夜権なるものを行使できるという慣わしがあり、実は伯爵はこれを廃止した筈なのに美しいスザンナに対して復活させようと、けしからん事を画策している。
それを知ったフィガロは当然怒り心頭、スザンナと協力して伯爵夫人や周りの人々を巻き込みながら伯爵の悪巧みを阻止すべく奔走する。
これに、お小姓ケルビーノやドクター・バルトロ、女中頭のマルチェリーナなどの人々が複雑に絡んでくる。
そして、最後は伯爵が自分のふしだらな行為について夫人に許しを請うことになり、庶民の勝利となる。
後半をすっ飛ばしてしまっているが、超あらすじとしてはこんなところだ。

このオペラ、人間関係がちょっと複雑なので、ご覧になるときには少しその点を予習された方が劇の進展に合点がいってベターだと思う。

〇 序曲 〇
『フィガロの結婚』は序曲も大変有名で、よく演奏される。
4,5分の短い曲だが、ちゃんとソナタ形式だ。
まず、弦によってニ長調の第1主題が奏される。
まことにモーツァルトらしい軽快でワクワクする曲調だ。
優美で穏やかな第2主題はヴァイオリンとファゴットに現れる。
短い展開部を経て主題が再現されて、コーダへ。
喜ばしく、舞台の楽しさを思わせて結ぶと幕が開く。
そこにはフィガロとスザンナが居るという段取りだ。

〇 魅力的なアリア、カンツォーナ、重唱の数々 〇
このオペラには本当に天才モーツァルトの紡いだ魅力的なアリアやカンツォーナが散りばめられている。
有名なものだけでも

第1幕「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」(フィガロのアリア)
第2幕「恋とはどんなものかしら」(ケルビーノのカンツォーナ)
第3幕「この抱擁は母のしるし」(スザンナ・フィガロ・マルチェリーナ・バルトロ・伯爵・ドン・クルツィオの6重唱)

などがあるが、登場人物を一律に扱わずに極めて個性的に描いている点では2重唱~6重唱にみるべきものがあるし、ブッファの設定の中にセリア的な語法を導入するのはこの後のオペラでもモーツァルトがよく行ったことだ。
だが、私がこの長いオペラ(カットが無ければ約3時間)で一番好きな歌唱は3分程の短いカンツォーナであるケルビーノの「恋とはどんなものかしら」だ。

〇 恋とはどんなものかしら 〇
このカンツォーナは伯爵のお小姓であるケルビーノが歌う短いカンツォーナだ。
ケルビーノはお小姓だから勿論男だが、このオペラではソプラノが歌う。
可憐で声の繊細なソプラノが歌うこのカンツォーナが、私は子供の頃から大好きだ。
ケルビーノがスザンナと伯爵夫人の前で歌うこの歌の内容は

恋とはどんなものかしら
知っているあなた
ご婦人方みてください
私の心は恋していますか・・・

で始まる。
憧れに満ちたこの感情は、時に火と燃えて、また冷めてしまう、ため息をつき、訳も無く胸が高鳴り・・
と恋心を可憐に歌い上げる。
曲は変ロ長調で始まって、属調のヘ長調に転調し、それから目まぐるしくヘ短調、変イ長調、それからハ短調・・
どんどん転調していく。
独特の転調と半音の動きが、恋に憧れ、翻弄され、夢うつつのうちに過ごす恋心をよく表している。
伴奏は木管と弦のピチカート中心の、とても洒落たカンツォーナ(アリエッタ)なのだが、実に上手いモーツァルトだ。


<今日の一枚>
今日はオペラということでもあり、DVDを観た。
1973年のグラインドボーン音楽祭の映像だ。
特にソプラノ陣の充実が素晴らしい盤だ。
■フィガロの結婚*歌劇 [DVD]
演出: ピーター・ホール 指揮: ジョン・プリッチャード 演奏: グラインドボーン音楽祭合唱団/ロンドンフィルハーモニー管弦楽団
出演: フィガロ:クヌート・スクラム(Bs)
スザンナ:イレアナ・コトルバシュ(S)
 ケルビーノ:フレデリカ・フォン・シュターデ(S)
伯爵夫人:キリ・テ・カナワ(S)
 アルマヴィーヴァ伯爵:ベンジャミン・ラクソン(Bs)
 バルトロ:マリウス・リンツレル(Bs)


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<推薦盤1>
プリッチャードのグラインドボーンのフィガロは私のイチ押しだが、他に挙げるとしたらベームだろう。
日本公演の貴重な映像がある。

■モーツァルト歌劇「フィガロの結婚」K.492 カール・ベーム指揮 ウィーン国立歌劇場日本公演 1980年 [DVD]
指揮:カーム・べーム
演奏:ウィーン国立歌劇場管弦楽団 合唱:ウィーン国立歌劇場合唱団
出演:フィガロ=ヘルマン・プライ/スザンナ=ルチア・ポップ/ケルビーノ=アグネス・バルツァ


 1980年9月30日 東京文化会館にて収録
 
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2013.10.20 Sun l モーツァルト l コメント (4) トラックバック (0) l top
★ J.Sバッハ チェンバロ協奏曲第5番 ★

実はこのところショパンばかり聞いていた。
バラード、ポロネーズ、スケルツォ、ワルツ、エチュード・・。
そして、今朝はバッハだ。
チェンバロ協奏曲第5番ヘ短調BWV1056。

チェンバロ協奏曲は以前にもこのブログで記事を書かせて頂いたのだが、私の場合、敬愛するバッハは何度でも登場することをご容赦頂きたい。
今朝はチェンバロで聞いたのだが、バッハの良い意味で古式蒼然とした落ち着きと郷愁まで感じさせる旋律美が真に素晴らしいと思う。

〇 威厳のある第1楽章 〇
4分の2拍子のリトルネッロ形式。
大変威厳を感じさせる全奏から始まる。
リトルネッロ主題では、チェンバロ(ピアノ)が弦楽に煌びやかな装飾を添えながら、独奏部では弦楽のサポート得て軽やかに主題を歌う。
形式美を守りながらも、旋律は自由に飛翔する。

〇 極めて美しい第2楽章 〇
このラルゴはとにかく美しい。
弦のピチカートに乗って、独奏チェンバロ(ピアノ)が有名な旋律を奏でる。
カンタータ第156番『わが片足すでに墓穴に入りぬ』のシンフォニア(所謂バッハのアリオーソ)に転用されている。
いかにも歌唱の似合う歌謡的なメロディだ。
このメロディは映画音楽に使われたり、チェロやギター、ピアノなどの様々な楽器用に編曲されている。

〇 小気味良い第3楽章 〇
主調に戻り、プレストで疾走する8分の3拍子の舞曲的な楽章だ。
切れ味の良いリトルネッロ主題と、バロック色溢れる独奏主題が絡み合って心地よいアンサンブルを演出する。


この『チェンバロ協奏曲第5番ヘ短調BWV1056』は10分ほどの作品だが、バッハの良さが凝縮した佳品と言ってよいと思う。


<今日の一枚>
今日は上述の通り、チェンバロだ。
ピノックの流麗なチェンバロが素晴らしい名盤を聴こう。
厳格にバッハを突き詰めるとリヒターのようなアプローチが必要になってくると思うのだが、バッハの楽しさを知るにはこの全集は最適だと言っていい。
居ずまいを正すばかりがバッハでは無いと、私は思う。
これはバッハのチェンバロ協奏曲の1台、2台、3台、4台のチェンバロ用の全てが楽しめる。
■バッハ:チェンバロ協奏曲全集
 トレバー・ピノック(指揮・チェンバロ) イングリッシュ・コンサート

【曲目】
1. チェンバロ協奏曲第1番ニ短調BWV1052
2. チェンバロ協奏曲第2番ホ長調BWV1053
3. チェンバロ協奏曲第3番ニ長調BWV1054
4. チェンバロ協奏曲第4番イ長調BWV1055
5. チェンバロ協奏曲第5番ヘ短調BWV1056
6. チェンバロ協奏曲第6番ヘ長調BWV1057~チェンバロと2本のブロックフレーテと弦のための
7. チェンバロ協奏曲第7番ト短調BWV1058
8. 2台のチェンバロのための協奏曲第1番ハ短調BWV1060
9. 2台のチェンバロのための協奏曲第2番ハ長調BWV1061
10. 2台のチェンバロのための協奏曲第3番ハ短調BWV1062
11. 3台のチェンバロのための協奏曲第1番ニ短調BWV1063
12. 3台のチェンバロのための協奏曲第2番ハ長調BWV1064
13. 4台のチェンバロのための協奏曲イ短調BWV1065
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<推薦盤>
推薦盤については繰り返しになるので前回の記事をご参照頂きたい。
【バッハ チェンバロコンチェルト】
チェンバロコンチェルト
2013.10.16 Wed l バッハ l コメント (2) トラックバック (0) l top
★ ショパン ノクターン作品9 ★

今日は、浅田真央選手の選んだと言うソチ・オリンピック向けの音楽の内ショートプログラム用のショパンを聞くことにした。
浅田選手の選択したのはショパンのノクターンの中でも、メロディラインが美しく最もポピュラーな第2番だ。

ショパンのノクターンは遺作も入れると全部で21曲残されている。
今日はその中で作品9として出版された3曲を聴くとことにした。

〇 作品9 〇
作品9には以下の3曲が含まれている。

第1番変ロ短調作品9-1
第2番変ホ長調作品9-2
第3番ロ長調作品9-3

作品9は1930~32年頃に作曲された曲で、ショパンはワルシャワ音楽院時代に知ったイギリス(アイルランド)のジョン・フィールドのノクターン(夜想曲)に心をうたれて、このジャンルの曲を作曲し始めたという。
この作品9はショパンが20歳頃の初期の作品になるが、後期のノクターンに比べるとフィールドを思わせるシンプルな構成になっている。
左手の分散和音(アルペッジョ)に乗って、右手が美しい歌を歌うという基本パターンだ。
楽曲の形式も、3部形式かロンド形式に近いものが多い。

〇 第1番変ロ短調 〇
この曲は出だしの右手のメロディが極めて美しく、メランコリックだ。
私はライブの演奏を聴きに行くと、恐らくここで呼吸はしていない。
ピアニストの緊張感が伝わるため、たいていの会場のお客さんも呼吸を止めてピアニストを凝視している。
左手の分散和音が聞こえてきて始めて小さく息を吐き出す、という感じだ。
中間部では変ニ長調に転じて、短い経過部を経てニ長調に転調したり表情を変える。
ラルゲットの主部のアルペッジョは引っ張ったままなので、微妙なハーモニーの変化が対比を作っていると思う。

〇 第2番変ホ長調 〇
これが浅田選手のSP演技を支える曲だ。
この4小節のロンド主題はあまりにも有名だ。
左手はワルツを思わせる同型の伴奏で、右手は副主題が入って、この有名な主題を魅力的な装飾音で変化させながら3回繰り返す。
コーダでは、一瞬盛り上がりを示し、そして静かに曲を閉じる・・。

〇 第3番ロ長調 〇
独特の半音階的な動きが印象的な主部を持つ3部形式。
中間部には激しいアジタートを配置して、主部とのみごとな対比を作っている。
ノクターンにおいてもショパンの曲作りが見えてきた気配がする。


<今日の一枚>
現代のアジアの貴公子で行こう、ユンディ・リだ。
実はルイサダを聴こうと思ったのだが、どこを探してもCDが見つからない・・、ユンディも素晴らしいのだ。
2000年のショパンコンクールで第1位となった彼は、今や単なるショパン弾きではなく、ベートーヴェンなどでも優れた技巧と解釈を見せてくれている。
このショパンは比較的オーソドックスにさらっと弾いているのだが、正確なタッチと虚飾を入れない真摯な曲作りは好感が持てると思う。
これは2枚組みの全曲集だ。(21曲全て)
■ショパン:ノクターン全集(通常盤)
 ユンディ・リ(Pf.)

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<推薦盤1>
このノクターンには巨匠ルービンシュタインの歴史的な全集がある。
ショパンのノクターンは、超絶技巧を必要とする曲でもなく、巨匠の指も余裕を見せている。
なんといっても、絶妙のアゴーギクやノクターンを知り尽くしたレガートの入れ方など、さすが巨匠である。
これは、19番までの全集だ。
■ショパン:夜想曲集(全19曲)
 アルトゥール・ルービンシュタイン(Pf.)

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2013.10.09 Wed l ショパン l コメント (4) トラックバック (0) l top
★ ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番 ★

今シーズンというかソチ向けのフリー演技の曲として、浅田真央選手が選んだ曲がこれだ。
ラフマニノフ ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 作品18。
ちなみにショートプログラム用はショパンのノクターン第2番らしい。

さて日本人にも圧倒的な人気を誇る名曲を今更ご紹介するのもおこがましいが、今日は昨晩のフィギュアスケートでの浅田真央選手の素晴らしい演技が脳裏に残っている内に、この名曲をちゃんと聴こうと思った。

〇 ピアノ協奏曲第2番 〇
ラフマニノフは1897年にサンクトペテルベルクで初演された交響曲第1番が大失敗に終わる。
初演の際に5人組の一人ツェーザリ・キュイは「主題の貧困さ、歪んだリズム、凝りすぎた病的な和声法、曲全体を覆う憂鬱さ」(新聞記事より)などと、かなり苛烈な言葉で酷評している。

また機会があれば、この交響曲についても私なりの感想を書かせて頂きたいと思うが、それ程酷いものではなく、むしろラフマニノフの音楽を良く語っている曲だと思っている。(もっとも改訂版の話だが)

とは言え、とにかくこの大失敗によってラフマニノフは徹底的に打ちのめされ、長い大スランプに陥ってしまう。
全く曲を書けない状態からラフマニノフを救ったのはモスクワの精神科医ニコライ・ダール博士だ。
このダール博士は確か自身もチェロを奏する音楽を愛する人だった筈で、ピアニストであり作曲家だったラフマニノフの苦悩を良く理解した。
彼の催眠療法は「あなたは素晴らしい協奏曲が書ける、、作曲はすらすら順調に進む、、書ける・・」という暗示を与えるもので、私には少し危ない感じもするが、とにもかくにもラフマニノフは自信喪失状態から脱し、ついに1901年にこの傑作を生み出すのだ。

〇 第1楽章 〇
この楽章はソナタ形式で、鐘の音を模したと言われる、ピアノ独奏による8小節の荘重な和音で始まる。
続いてピアノのアルペジオの導きで、オーケストラがダイナミックで有名な第1主題を奏する。
ああ、ラフマニノフだ。
鐘の音を模するというのはラフマニノフには何曲かに出てくる。

その後変ホ長調に転じて、ヴィオラの導きで大変叙情的な第2主題がピアノに現れる。
ここまでで完全に聞き手はラフマニノフの術中に落ちてしまう。

久しぶりにこの曲を聴いて、冒頭から最後のフィナーレまで、何と重厚なハーモニーと華麗なピアノが続くことだろうと改めて感嘆してしまった私である。
そして副主題のメランコリックな魅力は筆舌に尽くしがたいものがある。

〇 第2楽章 〇
緩除楽章はホ長調の3部形式。
短い序奏の後、ピアノの3連音に乗って、フルート&クラリネットが大変甘美で切ないメロディを詠う。
これをピアノ独奏が受けて、次第に高揚していく。
中間部ではファゴットとピアノが美しく語り合う。
そして、第3部は独奏ピアノのアルペッジョが効果的に曲を彩り、消えるようにこの楽章を閉じる。

〇 第3楽章 〇
最終楽章はオーケストラのリズミックな序奏に続いて、ピアノが活発に動き、スケルツォ的な主題が呈示される。
引き続いて、例の憂いに満ちた叙情的な主題がヴィオラとオーボエに現れる。

このメロディは恐らくラフマニノフが書いた、最も美しくロマンに溢れたメロディだろう。
これは映画音楽や、ドラマ・ドキュメントなどに使われて、ラフマニノフの代名詞的な旋律だ。

その後、アレグロに戻るとフガート風の展開もみせ、2つの主題を華麗に発展させた後に、ピアノの装飾に彩られながら第2主題を朗々と全奏で歌い上げ、最後はラフマニノフらしく4連打の和音で締め括られる。


<今日の一枚>
このくらいの名曲なると、名演と言えるCDはそれこそ星の数ほど存在し、もう好み以外の何物でもない。
いや、好みで名演奏をチョイスできるなんて、何とも幸せなことで、ここは是非リヒテルで行きたい。
極めてダイナミックでありながら、第2楽章などは心許なくなるほど切ない。
実はこの曲はコンサートホールで演奏を聴く場合、分厚いオーケストラの音に圧倒されてしまいピアノ独奏が聞き取れない、などということがよくあるのだ。
CD録音の場合は、そこをマイクで調整したりするのだが、リヒテルの場合そのような小細工は不必要だったのではあるまいか。
これはチャイコフスキーの1番とカップリングされている。
■チャイコフスキー&ラフマニノフ:ピアノ協奏曲、他
 スヴャトスラフ・リヒテル(Pf.) スタニスラフ・ヴィスロツキ指揮 ワルシャワ・フィルハーモニー管弦楽団, ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ウィーン交響楽団

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<推薦盤1>
リヒテル盤は私の推薦盤だが、アシュケナージも挙げておきたい。
ラフマニノフを得意のレパートリーとしたアシュケナージは、ラフマニノフの憂いに満ちたメロディを最も効果的に演奏出来るピアニストだと感じている。
とてもロマンティックだ。
身長2mに達っする程の大男だったラフマニノフの大きな手(1オクターヴ半(14度)届いたという!)と違って手の小さいアシュケナージが、この難曲を弾きこなすのは人知れぬ工夫と鍛錬が必要だったことだろう。
これは全集になっているので、ラフマニノフのピアノコンチェルトの全てを手に入れられる。
しかも、アシュケナージがまだ若い頃で、エネルギーに満ちており、プレヴィンのサポートも素晴らしい盤だ。
■ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第1~4番
 ウラディミール・アシュケナージ(Pf.)アンドレ・プレヴィン指揮 ロンドン交響楽団


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<参考盤>
この曲は珍しいことに作曲家自演のCDが存在する。
1929年39年の録音なので、さすがに音は悪い。
しかし、重厚でタッチの明瞭なラフマニノフ自身のピアノが聞ける貴重な一枚だ。
意外なほど剛直な演奏に驚くはずだ。
タクトはストコフスキーとオーマンディが振っている。
■ラフマニノフ:自作自演~ピアノ協奏曲第2番&第3番
 セルゲイ・ラフマニノフ(Pf.)レオポルド・ストコフスキー、ユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団

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2013.10.06 Sun l ラフマニノフ l コメント (6) トラックバック (0) l top
★ プロコフィエフ ピアノ協奏曲第1番 ★

このピアノコンチェルト(第1番変ニ長調作品10)は、プロコフィエフがまだ21歳の頃の1912年に完成されている。
私の記憶ではプロコフィエフ自身が、自分の成熟した作品の最初のものであるようなことを言っていたと思う。
確かにそれ以前のピアノソナタなどに比べると、はっきりプロコフィエフの特徴が出ていると思う。
半音階的なメロディーや無調の趣、ピアノに求められる高度な技術と打楽器的な扱いの処理(私はここを間違うと、とても荒々しい演奏になってしまって頂けないと感じている)、ノリノリのリズムなどなど、このロシアの作曲家は聴くほうも結構好みがはっきりしてくる。
私も子供の頃は正直に言ってあまり好んで聴くことはなかった。
だが、少し聞き込んでくると不思議に嵌る作曲家なのだ。
もしかすると、大人向けの作曲家なのかも知れない。

〇 第3番も良いが 〇
さてこの作品10のコンチェルトは、3楽章構成なのだが、殆ど通しで演奏される、全体でも15分前後の短い曲である。
プロコフィエフの5曲のピアノコンチェルトの中で最も演奏機会の多い曲は、恐らくピアノ協奏曲第3番 ハ長調 作品26 だろう。
だが、この短いコンチェルトはちょっとした時間にプロコフィエフのあの癖になる魅力に浸りたいときにはうってつけの曲なのだ。

曲の冒頭は、管による3つの和音から始まって、ピアノとオーケストラがいきなり主題を奏し始める。
一気に聞くものを自分の世界に引っ張ってしまう、プロコフィエフの天才だ。
この主題は終楽章にも現れて、全体の統一性を保っている。
少し煽るようなこのメロディは、非常に印象的で輝かしい主題だ。
ここは Allegro brioso の指定で、プロコフィエフらしく力強い始まりだ。
そして、ピアノによる素早いパッセージが続いて、オーケストラの呼応がとても小気味良い。

小休止の後、Andante assai の中間楽章は、嬰ト短調での非常に幻想的な始まりだ。
ピアノ独奏もゆったりと入ってくる。
夢見るような音色が染み渡ってくる。

そのまま、終楽章である Allegro scherzando へと進んでいく。
ここは実に派手で、どんどん盛り上がっていく、とても興奮する楽章だ。
ピアニストの演奏する姿を見ると、さらにプロコフィエフのアクロバティックな要求技術が解って興味深い。
ピアノはオクターヴの連打の嵐で、コーダでの緊張感と興奮度はすさまじいものがある。


<今日の一枚>
今日は秘蔵のトラーゼ&ゲルギエフで行きたい。
これは2枚組みの、プロコフィエフのピアノコンチェルト全曲集だ。
第2番のコンチェルトは特筆ものだが、今日聞く1番も、第1印象=新鮮 だ。
トラーゼの独奏ピアノの激しい揺れにもゲルギエフはぴったり寄り添っている。
そして全曲、慈しみと鮮烈を併せ持った演奏だと思う。
私はこの演奏でプロコフィエフが好きになった。
■プロコフィエフ:P協奏曲全集
 アレキサンドル・トラーゼ(Pf.)ワレリー・ゲルギエフ指揮 キーロフ歌劇場管弦楽団

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<推薦盤1>
現在入手可能なCDでプロコフィエフの1番の名演となると、希少になる。
こういう曲を弾かせたらピカ1のアルゲリッチがやはり素晴らしい。
アルゲリッチが、そのヴィルトゥオーソ振りを遺憾なく発揮して、元旦那様のデュトワがサポートする貴重な一枚。
アルゲリッチにとってプロコフィエフの1番はこれが最初の録音になるようで、得意の3番及びバルトークとのカップリングになっている。
バルトークも必聴。
■プロコフィエフ、バルトーク / ピアノ協奏曲集
 マルタ・アルゲリッチ(Pf.) シャルル・デュトワ指揮 モントリオール交響楽団

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2013.10.02 Wed l プロコフィエフ l コメント (8) トラックバック (0) l top