★ クライスラー 『愛の喜び』『愛の悲しみ』『美しきロスマリン』 ★

今日は、ヴァイオリンの小品を楽しもう。
フリッツ・クライスラーだ。
クライスラーはオーストリア出身のユダヤ系のヴァイオリン奏者で、作曲家だ。
自身も名ヴァイオリン奏者だった訳だが、素敵なヴァイオリンの為の小品をいくつも残してくれた。

クライスラーはなかなか謙虚な人だったらしく、自身の演奏会で演奏者も作曲家も全て自分の名前になるのを心苦しく感じ、自分のオリジナル作品を他の高名な作曲家(クープラン、ヴィヴァルディ、バッハ、ディッタースドルフなど)の作品である、或いはその編曲であると偽って発表した時期があった。
実はこの辺の事情は、別の観方もあるようだが、他の作曲家の名前を借りていたことは事実だ。
例えば、『ルイ13世の歌とパヴァーヌ』はクープランの作だと発表されていたが、勿論クライスラーのオリジナル作品だった。

〇 ヴァイオリン小品 〇
当時、いや今でもそうかもしれないが、ピアノの小品というものは結構沢山存在し、有名どころだけでもショパン、ドビュッシー、シューマン、リストなど枚挙に暇がない程だ。
しかし、ヴァイオリンとなると練習用のものも含めてあまり存在しなかったというのが実情だ。
そこで、クライスラーは自分自身の演奏会では勿論のこと、アマチュアも含めて広く愛されるヴァイオリン小品を創作したいと願っていたようだ。

〇 クライスラーの三部作 〇
今日聞く『愛の喜び』『愛の悲しみ』『美しきロスマリン』は、クライスラーの「古いウィーンの舞踏歌」三部作などと呼ばれている。
これは 1910年に「古典的手稿」として出版された中に収録されている。
この曲集の第10曲、11曲、12曲目に当たる。
また「愛の三部作」などとも呼ばれたりもするし、他の組み合わせもあったりする・・。
まぁ、とにかく三部作なのだ。

〇 愛の喜び(Liebesfreud) 〇
ハ長調の明るく快活で、正に「愛の喜び」に胸躍らせる曲調になっている。
三部形式で3拍子の喜ばしいワルツだ。
冒頭から重音を駆使して、聞いている以上に演奏は難しい曲だ。
中間部は、愛の余韻に浸るような夢見るメロディが美しい。

〇 愛の悲しみ(Liebesleid) 〇
この曲が「愛の喜び」と対になるのは、曲名からして納得だ。
イ短調でかかれた、憂いを含んだメロディから始まる。
こちらも三部形式で書かれたワルツ。

〇 美しきロスマリン 〇
こちらはト長調のワルツ。
やはり分かり易い3部形式で書かれており、優雅で甘美な旋律から始まる。

私は、幼い頃からクライスラーやサラサーテのヴァイオリン曲が好きで良く聴いた。
それは父の影響からで、私の父は特にヴァイオリンの音色を好んで、休みの日にはよく一緒にヴァイオリン協奏曲やこういった小品を聞いたのを思い出す。
そう言えば、父の18番はメンデルスゾーンやチャイコフスキーのコンチェルトだった。(18番と言っても聴くだけだが)


<今日の一枚>
今日は、ただヴァイオリンの音色に浸りたい気分なので、高いテクニックと温もりのある音が特徴であるパールマンでいかせて貰いたい。
パールマンは、いつも素直で明るいヴァイオリンの音色を聞かせてくれる。
■クライスラー:ヴァイオリン名曲集
イツァーク・パールマン(Vn.), サミュエル・サンダース(Pf.)

[曲目]
1. ウィーン奇想曲 作品2
2. ジプシーの女
3. スラヴ舞曲 第3番 ト長調
4. 美しきロスマリン
5. 愛の喜び
6. スペイン舞曲 (歌劇≪はかなき人生≫より)
7. 愛の悲しみ
8. ベートーヴェンの主題によるロンディーノ
9. 中国の太鼓 作品3
10. 踊る人形
11. ロンドンデリー・エア
12. 無言歌 作品62-1 ≪5月のそよ風≫
13. クープランのスタイルによる才たけた貴婦人
14. フラスキータのセレナード
15. アンダンテ・カンタービレ
16. ハンガリア舞曲 ヘ短調
17. カプリース 第20番
18. 岸辺のモリー
19. 悪魔のトリル

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<参考盤>
クライスラーには自作自演のCDが存在する。
西洋音楽の場合、作曲者本人による録音というものは大変貴重で、この録音もその一つだ。
録音が古いのでマスターに起因するノイズは避けられない。
テクニック的にも時代もあるのだろう(1910年~20年録音)愛の悲しみなどでもポルタメントが気になったりする。
しかし、正にオリジナルの音楽は一聴に値する。
■クライスラー:自作自演集
 フリッツ・クライスラー(Vn.)、ジョージ・フォールケンシュタイン, カール・ラムソン(Pf.)

[曲目]
1. 愛の喜び
2. 愛の悲しみ
3. 中国の太鼓op.3
4. ウィーン奇想曲
5. クープランのスタイルによるルイ13世の歌とパヴァーヌ
6. コレルリの主題による変奏曲
7. ベートーヴェンの主題によるロンディーノ
8. 美しきロスマリン
9. オールド・リフレイン
10. マルティーニのスタイルによるアンダンティーノ
11. ロマンティックな子守歌op.9
12. クープランのスタイルによるプロヴァンスの朝の歌
13. 誰が伝えられよう?
14. おもちゃの兵隊の行進
15. オーカッサンとニコレット
16. 羊飼いのマドリガル
17. ジプシー奇想曲
18. 道化役者
19. クープランのスタイルによる才たけた貴婦人

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2013.09.28 Sat l クライスラー l コメント (12) トラックバック (0) l top
★ シューベルト ピアノソナタ第21番 ★

今日はシューベルトのソナタにしよう。
第21番変ロ長調D960 は、4楽章から成るシューベルトの最後のピアノソナタだ。
この曲は1828年9月に作曲されたということなので、亡くなる2ヶ月ほど前のことだ。
シューベルトは1822年頃から急に体調を崩し始め、翌年には入院してしまい、一時小康状態を保つが、再び悪化し病院では回復の望みなしとの診断を受けてしまう。
詰まり、シューベルトがこの曲を作曲した時期には、病苦が確実に彼を襲っており、もしかすると自分自身の寿命を感じていたかも知れないのである。
実はシューベルトの最後の3つのピアノソナタは3部作などとも言われており、いずれも同時期に完成されている。

17番のソナタなどでもよく言われることだが、最後の三部作のソナタも長大で極めて歌謡的なソナタだ。

〇 いかにもシューベルト 〇
ソナタ形式で書かれた第1楽章の第1主題は、やはりシューベルトだ、ピアノで歌を詠っているような主題が奏でられる。
8小節目の低音のトリルは、これまたいかにもシューベルトだ。
この主題は変ト長調に転調したのち、主調に戻る。
この長大な楽章は20分以上になるが、その間魅力的な転調を繰り返しながら、主題は色彩を変えていくが、あくまでも呈示された旋律線は残る。
これはシューベルトの楽曲の大きな特徴と言っていいが、ソナタ形式で書いても大きな展開はしない。

自分の書いた旋律に酔うように、あくまでもラインを消すことはない。
この点でシューベルトは展開が弱いと、指摘されることもある。
しかも、以前は「長大で退屈」だとの批判から、ソナタなどはあまり演奏会でも取り上げられることは無かったそうだ。
弾くピアニストが居ても、聴衆が求めなかったのである。
確かに、規模の大きなシンフォニーなどを書くには欠点になるかも知れない「シューベルトの展開力」だが、私はこれこそがシューベルトの魅力ではないかと思う。
ベートーヴェンには無い、大らかで純真なメロディと心穏やかにしてくれる素朴なハーモニーが止め処なく流れているのだ。

〇 諦観 第2楽章 〇
第2楽章はゆったりとしたメロディが息づく3部形式の楽章だ。
私はこの優しい主部のメロディを聞くと、死を間近にしたシューベルトの諦観のようなものを感じる。
決して、声高に叫ぶことはないが、とても悲しい歌だ。
中間部はイ長調に転じて、少し明るさを取り戻す。
そして、最後は再現部のように同じメロディが現れる。

〇 軽快にスケルツォ 〇
第3楽章は、軽やかなスケルツォ楽章で、変ロ長調の複合3部形式。
トリオ部は変ロ短調でシンコペーションをうまく使って独特な響きを出している。

〇 元気な終楽章 〇
この楽章は最後を締めくくるに相応しい明るさを取り戻す。
主題はハ短調から始まって、しだいに主調である変ロ長調に転じる。
ソナタ形式なのだろうが、展開部ははっきりしない。
この楽章の元気さは、シューベルトの生への憧憬のように聞こえる。


<今日の一枚>
今日は巨匠ケンプのピアノに委ねてみたい。
第3楽章の一部では、少し手がロレってしまう部分もあるが、何と言ってもその演奏は品格と自信に満ちている。
第2楽章では、生きることへの憧憬の残渣を諦めるかのように穏やかな癒しの歌を詠ってくれる。
■シューベルト:ピアノ・ソナタ第21番 変ロ長調 D.960/楽興の時 D.780 [Limited Edition]
 ヴィルヘルム・ケンプ(Pf.)

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<推薦盤1>
ずっと以前に、イヴォンヌ・ルフェビュールやアンドレ・フォルデシュの演奏を聴いていたことがあり、お勧めしたいのだが、殆ど入手困難なようだ。
最近の録音で、私が素晴らしいと思うのはやはり内田光子さんだ。
第1楽章冒頭では、遥か遠くから『哀しみに溢れた憧憬』が静かに近づいてくるような音を響かせる。
テクニックも抜群にうまい。
■シューベルト:ピアノ・ソナタ第21番/楽興の時
 内田光子(Pf.)

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2013.09.23 Mon l シューベルト l コメント (0) トラックバック (0) l top
★ ラヴェル 『ボレロ』 ★

この曲はバレリーナ(女優)であるイダ・リヴォヴナ・ルビンシュタインの依頼によって、ラヴェルが書いたバレエ音楽だ。
イダ・リヴォヴナ・ルビンシュタインという人は、ユダヤ系のロシア人で、成人するまでは正統な技術を学ばなかったという異色のバレリーナだ。
彼女は豊富な資金力に物を言わせて、ラヴェルには「ボレロ」、ストラヴィンスキーには「妖精の接吻」などのバレエ音楽の創作を依頼している。

機械的な一定のリズム、スペイン舞曲のボレロ、これには機械技師であった父親とバスク人だった母親の影響をラヴェル自身が認めている。

〇 常識はずれの音楽 〇
さてこの曲は、たった二つの主題を約15分間延々と繰り返し、最後に崩れ落ちる・・・。
その間、展開もしない、転調もしない、全く同じテンポで、あるのは一つのクレッシェンド・・。
最初聞いた時は(中学生の頃)、何だ?これは?しかし、何とエキゾチックでストイックな曲なんだろう、と思ったものだ。

〇 じっと我慢のスネアドラム 〇
曲はスネアドラムの微かな音から始まる。
「チャンチャチャチャ、チャンチャチャチャ、チャチャ」「チャンチャチャチャ、チャンチャチャチャ、チャチャチャチャチャチャ」という3連符を含む一定のリズムを、ず~っとず~っと刻み続ける。
とてもマゾヒスティックな小太鼓さんだ。

そして、フルートにハ長調の主題が現れて、二つの主題がAABB(4回)A(B) のようなパターンで、各楽器を渡り歩く。
楽器も様々だ。
通常の管楽器に加えて、サキソフォン、オーボエ・ダモーレ、コーラングレ、コントラファゴット、ピッコロ・トランペット、チェレスタ、ハープ、スネアドラム、バスドラム、などなど、そして弦楽器。
まだあったかも知れない。

〇 注目のポイント 〇
私の注目ポイントは、何と言っても最後の転調。
我慢に我慢を重ねて、最後の最後になって、漸くハ長調からホ長調に転調する。
この寸前に、ちょっと妙な快感がある。
「ここで転調!」という瞬間を待つ音楽の旅人は、その時にオアシスに出会ったような充足感を味わう。

そして、ラストの崩壊部分。
我慢して我慢して、じっと一定のリズムを刻んできたオーケストラは、最後に一気に崩れる。
艱難辛苦を乗り越えて積み上げてきた積み木が、最後の一積みで崩れ落ちるように・・。

〇 バレエ 〇
この曲は本来バレエ音楽で、その舞台では、酒場(セビリアということになっていたと思う)の一隅で一人のダンサーが秘かにレッスンをしていると、段々興が乗ってきて身振り手振りが大きくなり、最後には無視していた酒場のお客さんまで一緒に踊り出し、ラストではやっぱり舞台に崩れ落ちる、というものだ。

〇 もう一つの聴き所 〇
実は中間部にも、聴き所がある。
ホルンとピッコロ(2)、チェレスタが入る部分だが、ここは禁断の並行音が進行する。
ハ長調のホルンを基音として、ホ長調とト長調のピッコロ、チェレスタもハ長調で倍音関係で重ねられている。
チェレスタは第2、第4倍音の関係になる。
この禁断の手法も、さすがはオーケストラの魔術師と言われたラヴェル、楽器を選ぶことで、違和感というよりも音場の広がりのような効果を出している。


<今日の一枚>
今日は昔から名演の誉れ高いクリュイタンスでいこう。
均整のとれたクリュイタンスのフランス音楽には、インテリジェンスと秘めた情熱があるように思う。
■ラヴェル:ボレロ、他
 アンドレ・クリュイタンス指揮 パリ音楽院管弦楽団

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<推薦盤1>
この曲は、本当に名演といえる録音が沢山存在して、もう好み以外の何物でもなくなってくる。
それでも、モントゥーは良いと思う。
あまりに機械的に演奏すると面白くないラヴェルを、実に有機的な音楽にしていると思う。
スネアドラムには命の鼓動を感じるし、楽器間の受け渡しが魅力的だ。
■ラヴェル:マ・メール・ロワ 他
 ピエール・モントゥー指揮 ロンドン交響楽団

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2013.09.19 Thu l ラヴェル l コメント (8) トラックバック (0) l top
★ グリーグ ヴァイオリンソナタ第1番 ヘ長調 ★

このところ仕事がハードだったので、優しい曲が聞きたい。
そこで、今日はグリーグのヴァイオリンソナタだ。
グリーグというと、『ペールギュント』や『イ短調のピアノ協奏曲』を思い浮かべられるかも知れないが、このヴァイオリンソナタもかなり素敵な曲だ。

グリーグはヴァイオリンソナタを3曲遺してくれているが、多分 第3番ハ短調作品45 が最も演奏機会も多く親しまれていると思う。
グリーグ自身も珍しく自身の3曲について、晩年振り返っている。
 1.第1期:素朴でアイディアに富む創作時期
 2.第2期:民族的な音楽内容の時期
 3.第3期:より広い視野に立つ時期
そして、この3曲のソナタがそれぞれの創作時期を代表する内容になっている、というようなことだったと思う。

すると、差し詰めこの1番は第1期の代表曲ということになろう。

〇 愛らしい 第1番ヘ長調作品8 〇
私は、この第1番ヘ長調のソナタは大変愛らしいソナタだと思っている。
グリーグ自身の言葉によれば、「素朴でアイディアに富んだ」曲ということになり、うん、なるほど、とてもシンプルで奇をてらった展開などは多用していない。
第2期の先取り的に、第2楽章などはとてもスカンディナヴィア色を感じる民族音楽の世界だ。

〇 アイディアの一つか 〇
私は何故か、第1楽章冒頭の和音が好きだ。
これもグリーグの言うアイディアの一つなのだろう。
ヘ長調の主調に対して、短調の和音を二つ、ピアノに乗せる。
小さいことからも知れないが、私はミステリアスな雰囲気のここが好きだ。
そして、少し憂いを秘めた叙情的な主題が呈示される。
表情を変えながら、この瑞々しい旋律は展開部前では短調に転調して憂いを増す。

グリーグの音楽には、テンポがどうであっても、例え全休止があっても、途絶えることの無い美しい流れがある。

〇 民族音楽的 第2楽章 〇
この楽章はメヌエットのような舞曲楽章で、3部形式だ。
主部はイ短調のいささか古風な民族音楽に特徴的な旋律が謡われ、中間部は一転してイ長調の活発な舞曲風の主題が現れる。
この楽章は、3曲のソナタの中でもかなりノルウェーの民族音楽の特徴が出ていると思う。

〇 愛の会話のような第3楽章 〇
エネルギッシュで活発な終楽章は、まるでピアノとヴァイオリンが楽しい愛の語らいを交わすように進行する。
ここはピアニストとヴァイオリニストも、時々見詰め合いながら演奏するのが理想だ。
北欧の春を寿ぐように、優しい会話は最後まで途切れない。


<今日の一枚>
今日は第3楽章に「愛の語らい」を実践出来るご夫婦の演奏でいこう。
デュメイとピレシュだ。
フランス人のデュメイとポルトガル人のピレシュだからか、この演奏からはそれほど色濃いノルウェー色は漂ってこない。
どちらかと言うと、ブラームスかシューマンを聴くような感触がするが、何度聴いても心地よい本物だ。
グリーグのソナタは現在入手しやすいCDとしては、これが私の推薦盤でもある。
■グリーグ:ヴァイオリンソナタ集
 オーギュスタン・デュメイ(Vn.), マリア・ジョアン・ピレシュ(Pf.)


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2013.09.15 Sun l グリーグ l コメント (4) トラックバック (0) l top
★ J.S.バッハ イタリア協奏曲 ヘ長調 ★
今日は、J.S.バッハの 「イタリア協奏曲ヘ長調BWV 971」 だ。
この曲は、先日ご紹介した 「フランス風序曲」 と共に『クラヴィーア練習曲集』第2巻 の中の一曲だ。

原題は、ドイツ語で「Concerto nach Italienischem Gusto」となっており、「イタリア趣味に則った協奏曲」とでも言えば良いのだろうか。

この曲の譜面には、珍しいことに「f(フォルテ)」「p(ピアノ)」の記号が記入されており、これはヴィヴァルディに代表されるイタリア式の合奏協奏曲(コンチェルト・グロッソ)でのトゥッティとソロの対比を表しており、2段鍵盤式チェンバロでの鍵盤の切替指示と考えて良いのだと思う。
バッハは若い頃から研究してきたイタリア様式のコンチェルト・グロッソを2段鍵盤のチェンバロで表現しようとしたのだ。

〇 明朗快活なメロディ 〇
曲は3楽章構成で、特に両端の楽章は青く澄んだイタリアの空の如く、軽快で明るい曲調だ。
「明朗快活」などと言うと、出来の悪い履歴書の自己アピールのようで恐縮だが、正にそのような形容がぴったりな明るい曲だ。
これに、演奏家を得ると「高貴」というファクターが加わるから堪らない。
バロック音楽にはバッハを頂点として、明るく聴き心地の良い音楽が数多くあるが、人をして感動せしむる楽曲を書いたのは、アルビノーニの数曲を除けば、バッハ一人だと思っている。

〇 活力溢れる 第1楽章 〇
速度の指定などは無いのだが、アレグロと考えていいと思う。
そういうメロディであり、軽快さが命だ。
この楽章はリトルネッロ形式とはいいながら、最初と最後のリトルネッロ主題以外ははっきりしない。
譜面で言えば、「f」指定がリトルネッロで、「p」指定がエピソードに当たるのだろうが、良く聞いていると一概にそうでもないように思える。
しかし、そうした揺らぎをもちながら、イタリア様式でとてつもなく楽しい曲を、バッハは私たちに遺してくれた。
私は、この曲を聴くととても元気になるのだ。

〇 しっとり美しい 第2楽章 〇
この楽章こそ、最もバッハらしいと私は思う。
アンダンテの指定で、曲はゆったりと流れる。
歩むようなバッソ・オスティナートに乗って、極めて美しい旋律が装飾的に詠われる。
両端楽章との対比が見事であり、このドイツ的な形式美も持ったアンダンテ楽章があるからこそのイタリア様式になっているところが、バッハだ。

〇 軽快の極み 第3楽章 〇
この楽章は、プレスト指定で軽快さの極みだ。
トゥッティとソロのニュアンスを、曲の陰影に心地よく投影しながら突き進む。
各声部の音の重ね方は、バッハ得意の対位法を駆使しており、リトルネッロ主題の展開などはとても面白いし、モーツァルト以降のピアノソナタへの道を示していると感じる。


<今日の一枚>
今日は軽快なピアノで聞きたい気分だ。
シフで行きたい。
まあ、とにかく心地よい演奏なのだ。
これは単に軽快なだけではない、音の粒立ちが良く、しかも滑らかだ。
両端楽章はそのように、春の草原を舞う蝶のように軽やかなバッハで、中間楽章は十分に脱力が出来ている。
このアンダンテは力みがあっては、心のつかえになってしまう。
■イタリア協奏曲/シフ・プレイズ・バッハ
 アンドラーシュ・シフ(Pf)

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<推薦盤1>
元気になりたい時や爽やかな朝にイタリア協奏曲を聞くには、断然シフがお勧めだが、深夜に読書の友にしたり雨の昼下がりに聞くならブレンデルがいい。
軽みと共にブレンデル特有の温もりが母のように優しく包んでくれるバッハだ。
■バッハ:イタリア協奏曲、他
 アルフレッド・ブレンデル(Pf)

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<推薦盤2>
チェンバロから選ぶなら、レオンハルトが総合的にいいと思う。
少しゆったりめのテンポで丁寧に音を紡いでいく、いつものレオンハルトだ。
こちらは2枚組みで、レオンハルトのバッハを堪能できる。
■バッハ:イタリア協奏曲
 グスタフ・レオンハルト(Cmeb.)

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2013.09.09 Mon l バッハ l コメント (6) トラックバック (0) l top
★ チック・コリア 『Return to Forever』 ★
今日はジャズでスタートだ。
台風一過で少し涼しくなったこともあって、フュージョン系を選びたくなった。
『Return to Forever』、このアルバムはチック・コリアが1972年に発表したもので、同名のバンドでの有名なヒットアルバムだ。

シンセサイザーや電子ピアノなどを使用した、所謂クロスオーバーと言われるジャンルになるのだろう。
私は、クラシック音楽を中心に色々好きな音楽を聴いているのだが、時々このアルバムを聞きたくなる。
チック・コリアがまだ若い頃のアルバムでラテンの味付けが心地よいフュージョンだ。

〇 『Return to Forever』〇
このアルバムは次の4曲が収録されている。

1. Return to Forever
2. Crystal Silence
3. What Game Shall We Play Today
4. Sometime Ago - La Fiesta

2曲目のCrystal Silenceはゲイリー・バートンとのデュオも有名だが、このジョー・ファレルのソプラノ・サックスとの音がまた良い。
チック・コリアのアコースティックピアノの幻想的なメロディにファレルのサックスが入ることでアーバンな気怠さまでが漂って、何とも心地よい。

3曲目の What Game Shall We Play Today は平成11年の日産セフィーロのCMに使われたとのことだが、私は残念ながら記憶に無い。
「イルカに乗ろう フルリラックス セフィーロ誕生」 とのキャッチコピーだったそうだ。
ボーカルも入ってボサ・ノヴァ、リラックスするご機嫌なナンバーだ。

最後は、Sometime Ago と La Fiesta のメドレーになっている。
ピアノとベースのイントロから入って、前半は Sometime Ago。
後半の La Fiesta ではフローラ・プリムのボーカルが瑞々しくて魅力的だ。


1970年代以降のジャズ・フュージョンの先駆けとなった、そして今でも心地良い名アルバムだ。
お酒が無くてもリラックス出来る。(あった方がbetterだろうが)


<今日の一枚>
カモメのジャケットで有名なチック・コリアのアルバムは、私のお気に入りだ。
■リターン・トゥ・フォーエヴァー
 チック・コリア:electric piano
 ジョー・ファレル:flutes/soprano sax
 スタンリー・クラーク:elec. bass/double bass
 アイアート・モライア:drums/percussion
 フローラ・プリム:vocal/percussion

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2013.09.05 Thu l ジャズ l コメント (0) トラックバック (0) l top
★ エリック・サティ 『ジムノペディ』 ★
エリック・サティ、この変わり者のフランスの作曲家は、多くの音楽家に影響を与えている。
同時代の作曲家である、ドビュッシーもラヴェルもその影響を公言して憚らなかったし、19世紀末から顕著になる西洋音楽の常識破壊に先鞭を付けた、しかも奇行の目立つ風変わりな作曲家だった。

教会旋法の採用や並進行の和声などで、一般的な調性の破壊を促し、拍子も統一的な把握から開放するなど、数々の当時のタブーを破った作曲家だと言える。
『家具の音楽』のように、音楽の聞き方(ただそこにある音楽)に一石を投じたり、『ヴェクサシオン』では52拍を840回の繰り返し指示を行ったり、誰もやらない事を平気でやりまくった。

曲のタイトルについても、何だこれ? と、思わず「聞きたくならない」タイトルが付けられたりしている。
例えば、
・「犬のための」ぶよぶよした前奏曲
・「犬のための」ぶよぶよした本当の前奏曲
・干からびた胎児
・でぶっちょ木製人形へのスケッチとからかい  
などなど・・。
「ぶよぶよ」は出版を拒否されたようで、「本当の」で再チャレンジしたようだ。
「干からびた」には ナマコの胎児 まで登場する始末で、確かに鑑賞意欲は湧かない。
タイトルで作品を評価することへの、サティらしい皮肉であろう。


〇 3つのジムノペディ 〇
このジムノペディはサティがまだ22歳の若い頃のピアノ曲だ。
パリ音楽院を中退し、軍隊に志願したのだがそこからも逃げ出し、酒場のピアノ弾きとして生計を立てていた頃の作品。
酒場にはトゥールーズ=ロートレックやヴェルレーヌらも顔を出し、サティは音楽家よりもそうした詩人や画家と交友を深めていたようだ。

そんな時期の作品「Trois Gymnopédies」はいずれも3分ほどの短い曲だが、次の3曲から成っている。

1.第1番 : Lent et douloureux(ゆっくり、痛々しげに)
2.第2番 : Lent et triste(ゆっくり、哀しげに)
3.第3番 : Lent et grave(ゆっくりと、荘重に)

〇 シンプルな音の巡り 〇
「低音の単音(弱音)」+ 「中音域の和音(強音)」という、1拍1拍歩むようなパターンの上で、緩やかなメロディーが流れる。
3曲とも同じような3拍子、2部形式の、無駄な音の一切無い実にシンプルな音楽。
これは、鑑賞する側からすると、自身の置かれる空間をイメージする為の音楽のように感じる。

私が、初めて聞いた時の空間イメージは、印象派の絵画が並んだ美術館を一人でゆっくり巡るようなイメージ。
ムソルグスキーの「展覧会の絵」のプロムナードに少し近いイメージだった。

何故か、私はサティが言う「痛々しい」「哀しい」というよりも、蕩うような安寧な歩みを感じた。
これからの季節、秋の夜長を彩る音楽にもなり得る。(曲が短かすぎるが・・)


<今日の一枚>
この曲の場合、ピアニストには何かを表現する、ということよりも、深く曲の中に沈潜して頂きたい。
そこで、パスカル・ロジェを引っ張り出した。
■3つのジムノペディ~サティ・ピアノ作品集
 パスカル・ロジェ(P)

1. ジムノペディ第1番
2. ジムノペディ第2番
3. ジムノペディ第3番
4. おまえが欲しい
5. 4つのしまりのない前奏曲(犬のための)
6. あやなす前奏曲
7. 4番目の夜想曲
8. 古い金貨と古い鎧
9. ひからびた胎児
10. グノシエンヌ第1番
11. グノシエンヌ第2番
12. グノシエンヌ第3番
13. グノシエンヌ第4番
14. グノシエンヌ第5番
15. グノシエンヌ第6番
16. 官僚的なソナチネ
17. ピカデリー
ジムノペディの他にも、グノシェンヌやジュ・トゥ・ヴー、ピカデリーなども収録されていて楽しいアルバムだ。
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<推薦盤1>
サティはあまり生真面目に弾き過ぎるよりも、洒落た大人の遊び然としたアプローチの方が楽しい。
サティ研究家でもあった、バルビエはチッコリーニともちょっと違う、サティの「ほんと」を教えてくれる。
しかし、CDの入手が困難になってきている・・。
■TWIN BEST エリック・サティ作品集
 ジャン=ジョエル・バルビエ(Pf)

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<推薦盤2>
サティを私たちに教えてくれた功労者とも言えるチッコリーニ。
敬意をもって接したい。
こちらは新しい録音になるが、1回目の録音時の方がもっとやんちゃだった。
こちらは少し大人になったチッコリーニが改めてサティを語ったという風情。
■ベスト・オブ・サティ
 アルド・チッコリーニ(Pf)

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2013.09.02 Mon l サティ l コメント (4) トラックバック (0) l top