FC2ブログ
★モーツァルト ピアノソナタ第11番『トルコ行進曲付き』★
今日はこのあまりにも有名なピアノソナタと聞こう。
このソナタの第3楽章が所謂モーツァルトの「トルコ行進曲」として、世界中で愛されている曲だ。
ご存知の通り、ベートーヴェンもやはり「トルコ行進曲」と呼ばれる楽曲を作っているが、こちらは元々劇付随音楽『アテネの廃墟』の中の楽曲として管弦楽用に作曲されたもので、ピアノ用にも編曲されており、モーツァルト同様日本でも子供の演奏会用にも広く使用されている。

♪モーツァルト トルコ行進曲
♪ベートーヴェン トルコ行進曲

〇 ピアノソナタ第11番イ長調K.331 〇
さて、この3楽章のソナタだが、実はソナタ形式の楽章は一つも無い。
第1楽章はシンプルな主題による変奏曲で、第2楽章はメヌエット、そして第3楽章はトルコ行進曲でロンド形式で書かれている。
かつての4楽章制での第1楽章が欠落した形式か、等の検証もあるが、そんなことよりもやはり何故トルコ行進曲なのか?の方が面白い。

〇 オスマン帝国 〇
この曲はかつては1778年頃パリで作曲されたのではないかというのが有力な説であったが、現在では1783年頃にウィーン或いはザルツブルクで作曲されたとする説が主流になっている。
14世紀頃に興ったオスマン帝国は、特に15世紀~17世紀にかけて地中海周辺に広大な版図を誇っていた。
そのオスマン帝国がヨーロッパに関わってくる中で、1683年の「第2次ウィーン包囲」という事案があり、ヨーロッパ諸侯連合軍はこれをみごとに打ち破っている。
このソナタが作曲された頃は、丁度それから100周年に当り、ウィーンでは祝勝ムードで盛り上がっていたようだ。
その為、ウィーンではトルコブームが起こっており、流行に敏感なモーツァルトは、この曲にトルコ風のリズムと表現的効果を取り入れたという訳である。
(オスマン帝国は正確にはトルコ民族の国家という訳ではないのだろうが・・・)

〇 子供には易しく、大人には難しい 〇
このシンプルで親しみ易い楽曲は、日本でもピアノ発表会の常連曲目といって良い。
特に第3楽章は、単独で取り上げられることも多い。
だからこそ、この曲はプロのピアニストにとっては「やばい音楽」なのだ。
やばいはお下品なので、ちゃんと言うと「大人には難しい」「プロの演目には至難の曲」ということだ。
隣の~ちゃんでも弾ける曲で、2千人の観客からお金を戴くなんて、考えたら恐ろしいことだ。
万一ヘタクソだったりしたら暴動になるし、通り一遍に弾いたら間違いなくブーイングの嵐だ。

〇 左手の動きにトルコが宿る 〇
ここで言う「トルコ風の音楽」とは、オスマン軍が随行したメフテラーンと呼ばれた独特の軍楽隊が奏でる勇壮なミュージックのことを指している。
これは「ジャン、ジャン、ジャンジャンジャン」といったリズムで、シンバルや太鼓、ラッパを中心とした軍楽隊(メフテル達)が奏する結構喧しい行進曲だ。
この音楽を、モーツァルトは左手の伴奏に活かしている。
(左手だけ聞くと、面白い)

〇 パッセージにも工夫がある 〇
その他の特徴として、3度、6度、オクターヴのパッセージがところどころに使われており、当時のモーツァルトの志向を窺い知ることが出来るように思う。
確かな記憶ではないので申し訳ないが、モーツァルトが父や姉に送った書簡にもそうしたパッセージに対する言及があったように思う。
(第1楽章の、あの短調に転調する素敵な第3変奏とか)

愛らしい中にも、ちゃんと新しい試みが活かされているのだ。


【モーツァルト ピアノソナタ第2番】
ピアノソナタ第2番
【モーツァルト ピアノ協奏曲第20番】
ピアノ協奏曲第20番
【モーツァルト ピアノ協奏曲第9番『ジュノーム』】
ピアノ協奏曲第9番『ジュノーム』



<今日の一枚>
さあて、このプロにはやばいソナタを誰で聞こうか。
所謂、名演と言われる音源は数あるのだが、私はケレン味の無い演奏が好きだ。
これだけ、技術的に易しく、子供でも弾ける曲となると、どうしても色々やりたくなるのだろう。
極端に遅いテンポ(グールド)を取ったり、装飾音で華やかさを演出したり(ファジル・サイ)と個性的な名演奏が存在する。
私自身、そうしたある意味ケレン味のある演奏にはどうしても惹かれてしまう方で、ある時期は嵌るのだが、やはりいつしか基本に戻る。
この曲の私にとっての基本は、ピレシュだ。
ピレシュはモーツァルトのピアノソナタ全集を2度録音しているが、今日は1970年代の若い頃の演奏を聞きたい。
2度目の録音の方が、貫禄というか落ち着きがあるように思うが、若い頃の演奏のほうが素直な印象を抱いている。
■モーツァルト:ピアノ・ソナタ全集3 (全集からの分売)
 アリア・ジョアン・ピレシュ(P)

21S183VG2GL__SL500_AA300_.jpg


全集全てでもリーズナブルなので、輸入盤なら尚お得感がある。
■Mozart: Complete Piano Sonatas [CD, Box set, Import]
51tbDddjVQL__SL500_AA300_.jpg



<推薦盤1>
ちょっと古い録音になるが、やはりギーゼキングは外せない。
ギーゼキングのモーツァルトは、上述のケレンというものが無い。
知的で品格のある演奏は、時を超えて私たちを古典の美しさへと誘ってくれる。
■モーツァルト:ピアノ・ソナタ第10番~第13番
 ワルター・ギーゼキング(P)

51q9uEbs5XL__SL500_AA300_.jpg


<推薦盤2>
こちらは、気品と優雅さに満ちた格調高いモーツァルトが聞ける、イングリッド・ヘブラーだ。
彼女もまたモーツァルト弾きとして有名であったが、そのにこやかな風貌から感じるような、流れるような淀みのない美しいフレージングが印象的だ。
こちらは選集だが、ピアノソナタ全集もある。
■モーツァルト:ピアノ・ソナタ選集 [K.310/545/331]
 イングリッド・ヘブラー(P)

51eJrSFMzUL__SL500_AA300_.jpg



2013.07.12 Fri l モーツァルト l コメント (0) トラックバック (0) l top
★ モーツァルト 交響曲第40番 ★
交響曲第40番ト短調 K.550、このシンフォニーは、モーツァルトが残した傑作の中でも最も有名な曲の一つだ。
モーツァルトにとっても、ナンバーの付いたシンフォニーの中で2曲しかない短調のシンフォニーの一つで、特別なものだった筈なのだ。(もう一曲は、同じくト短調の25番)

〇 哀しみ?慰め? 〇
この曲は、調性のこともあってモーツァルトの「悲しみ」や「諦観」といったものを感じる、と聞くことがあるのだが、う~ん、確かにメロディが余りにも美しいので、そのような聞き方にもなるのだろうが、私には「苛立ち」や「焦燥感」「もやもや感」が根底にあるように思える。
あるいは、モーツァルトにとってちょっとした実験的な試みだったのかと考えたこともある。
例の僅か2~3ヶ月の間に作曲された3大シンフォニーの中で、この曲はト短調という調性も異例だが、曲の構造がとても不安定なものになっている。
ジュピターなどは、バッハ流のきっちりとした構築美をもっているのだが・・・。

〇 不安で始まる 第1楽章 〇
まずヴィオラによる短い序奏の後に、あのあまりにも有名な旋律「ラソソ、ラソソ、ラソソーミ(固定ド)」がヴァイオリンに出る。
ここでは序奏が効果的?に聞く者の不安を煽る。
この短い序奏と「ラソソ、ラソソ、ラソソーミ」で、全曲のイメージを語りきっている。
こういうある意味潔いとも言える語り口にモーツァルトの天才たる所以があるのだと思っている。
短いフレーズの中にあらゆる想いを封じ込めてしまう。
だから、それを紐解いて私たちに聞かせる演奏家という職業が成立するし、再生芸術を楽しむ私たちの「酒」や「珈琲」「会話」の味が変わるというものだ。
このメロディは「ため息の動機」とも言われるメロディで、これがこの楽章中同型で現れる。
展開部に入ると、この主題が嬰ヘ短調から順に短調を渡り歩く。
彷徨い歩くと言った方が妥当か。
深い森を宛てもなく彷徨う蝶のように・・・。

〇 何拍子なのだ?第2楽章 〇
この楽章は何とも落ち着かないリズムなのだ。
最初聞いた時には「うん?3拍子かな」と思ったのだが、例の32分音符の「チュラ、チュラ」とヴァイオリンが奏するあたりに来ると「あれ?2拍子だったのかな?」、本当にリズムが判りにくい楽章になっている。
実際にスコアを見ると、これは8分の6拍子。
しかし、2拍子と3拍子の組み合わせみたいな構成になっている。
モーツァルトは意図的に拍子を暈した音楽を作っている。
またまた、聞く者を不安に陥れるモーツァルトのトラップ。

〇 踊れないメヌエット 第3楽章 〇
無論、これは実際に踊るための音楽として作られたものでは無いと思うが、元来メヌエットは2小節又は4小節が一つの単位として作られる音楽だ。(2小節6拍とか、舞曲なのだから)
ところが、このメヌエットは 
(3小節、3小節)+(5小節、3小節) 又は (3小節、3小節)+(4小節、4小節)
という構造になっていて、ものすごく異常な形だ。
この曲では踊れない。
私たちがメロディやハーモニー、リズムを感じるのは、経験則によるスキーマを持っているからだが、このメヌエットではリズムのスキーマが見事に裏切られる。(しかも実に心地良く)
おお!ここにもモーツァルトによる不安トラップが。

〇 転調の嵐 第4楽章 〇
この終楽章は、何者かに突き動かされる様な第1主題で始まるソナタ形式。
展開部がまた異常だ。
提示部の最後から(変ロ長調か?)展開部に入るときにニ短調に動いて、ここから目まぐるしく4度での転調を繰り返してヘ短調まで急降下。
かと思っていると、今度は俄然思い直したように反対方向に転調を始めて、ハ短調、ロ短調、(ホップ・ステップ)嬰ハ短調(ジャンプ)と数十小節の間に変遷を繰り返す。
しかも、限りなく美しいメロディでこれをやられるのだ。
もう、聞いている者の心は千々に乱れる。

このように、このシンフォニーには聞く者の不安を煽るトラップが満載なのだ。

また、このシンフォニーのオーケストラ編成には、ティンパニとトランペットが使われていない。
第1楽章の木管が繋ぎの音楽を奏する陰に隠れて、再現部が忍びの者のように現れるといった趣向と併せて、モーツァルトが「こっそり」演出する数々のトラップに強い音の楽器は省いたのではないだろうか。


【モーツァルト 交響曲第41番『ジュピター』】
交響曲第41番『ジュピター』
【モーツァルト 交響曲第39番】
交響曲第39番
【モーツァルト ピアノ協奏曲第9番『ジュノーム』】
ピアノ協奏曲第9番『ジュノーム』



<今日の一枚>
さて、そのような40番、誰で聴こうか。
やはり愛聴盤に手が伸びる。
ブルーノ・ワルターだ。
ジュピターでは輸入盤を紹介したので、ここでは国内盤の一つを紹介しよう。
40番以外に、アイネクライネナハトムジークなどの魅力的な曲も収録されていてお得感がある。
■モーツァルト 交響曲40番、他
 ブルーノ・ワルター指揮 コロンビア交響楽団

【収録曲】
1. 交響曲第40番ト短調K.550
2. アイネ・クライネ・ナハトムジーク ト長調K.525
3. 歌劇「劇場支配人」序曲K.486
4. 歌劇「コシ・ファン・トゥッテ」序曲K.588
5. 歌劇「フィガロの結婚」序曲K.492
6. 歌劇「魔笛」序曲K.620
7. フリーメイソンの葬送音楽K.477

51BIRc8kSmL__SL500_AA300_.jpg


<推薦盤1>
ワルター盤はとってもロマンティックなモーツァルトだが、もっと冷静に抑制的にこの美しいメロディ(美しいメロディはやはり徹底的に美しく)楽しみたい方にはベーム+ウィーンフィル盤をお奨めする。
ジュピターで紹介したベルリン・フィルも良いが、ウィーンの香りがするこの盤は美しい!
■モーツァルト 交響曲第40番ト短調K.550 、他
 カール・ベーム指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

【収録曲】
1. 交響曲第40番ト短調K.550
2. 交響曲第41番ハ長調K.551「ジュピター」
3. フリーメイソンのための葬送音楽ハ短調K.477(479a)

41DCHZ229HL__SL500_AA300_.jpg


<推薦盤2>
もう少し最近の録音では、ヴァント盤がいい!
すっきりと、喚かず、この曲の遷ろう心を端正に表現している。
録音も申し分ない。3大交響曲が収録されている。
■モーツァルト 交響曲第40番ト短調K.550 、他
 ギュンター・ヴァント指揮 北ドイツ放送交響楽団

【収録曲】
1. 交響曲 第39番 変ホ長調 K.543
2. 交響曲 第40番 ト短調 K.550
3. 交響曲 第41番 ハ長調 K.551 「ジュピター」
41r8ORrB5UL__SL500_AA300_.jpg



2013.06.01 Sat l モーツァルト l コメント (0) トラックバック (1) l top
★ モーツァルト 交響曲第39番 ★
この交響曲第39番 変ホ長調 K.543は、モーツァルトの3大交響曲の最初を飾るシンフォニーだ。
シンプルで美しいメロディに満ち、完成されたソナタ形式、典型的な3部形式で書かれたモーツァルトの代表作だ。
そして、オーケストラ編成で目を引くのはオーボエがないことだ。
代わりに、クラリネットが活躍する。
数年前からモーツァルトはこのクラリネットという、当時新しかった楽器を上手に使うようになっていた。
後に、クラリネット協奏曲という傑作も生み出している。

〇 なぜ?クラリネット 〇
このシンフォニーでオーボエに替えて、クラリネットを選択したのには理由がある筈だ。
編成の小さい楽曲ではオーボエを外すことはあったように思うが、ある程度以上の規模のシンフォニーではあまりないことだろう。
以前何かの書物で読んだ、友人であるクラリネット奏者シュタートラーのことが頭にあったのか。
うん、この考え方は現実的だと思う。
しかし、私はここで敢えて曲想に注目したい。
子供の頃聞いた39番のLPジャケットに「明るい」曲だと評してあったのが、私はどうしても納得がいかなかった。
この曲の表面にある快活さやにこやかさの裏には、何かに耐える様な秘めた哀しみがあると思いませんか。
その微妙な裏面を持った柔和な表情を出すために、オーボエではなくクラリネットの温もりのある音を選択した。
私はそんな風に考えてこの曲を聞いている。

〇 印象的な第1楽章 冒頭 〇
この曲の第1楽章は、所謂序奏付きのソナタ形式で書かれている。
私は、この序奏がとても大切だと思っている。
CDを聞く場合でも、この序奏の部分の指揮者の処理が全てを決める!くらいの勢いで楽しみにして聞く。
オーケストラの強奏、ティンパニのリズミカルな連打、弦の流麗な下降音型、少し落ち着いたかと思うと管が入って、まだ下降音型は続く、それが低弦の上昇音型に変って突然不協和音が響き、その間ティンパニが効果的に付点リズムを刻む。
ここをどのような速さで管と弦のバランスをどう保ちながら、如何にオーケストラを歌わせるか、指揮者の技量が問われる最大のポイントだと思う。
そして、第1主題が提示されるのだが、私はここでの低弦による「ズン」という始まりが好きだ。
序奏の間、彷徨っていた思念がある決意をしたかのような「ズン」なのだ。
変ホ長調という穏やかな調性もあって、「明るい」というよりも「柔和」な印象を抱く。

〇 クラリネットが愛らしい 第3楽章 〇
第3楽章は3部形式のメヌエットだが、このトリオ部分のクラリネットが可愛らしい。
ここをシュタートラー兄弟が演奏することを想定していた、と考えるのは至極妥当に思えるのだ。
このフレーズの為だけにクラリネットを待機させても聴衆は納得するぐらいだ。
本当にこうしたノリの良い快活なメヌエットは、モーツァルトの独壇場だ。


【モーツァルト 交響曲第41番『ジュピター』】
交響曲第41番『ジュピター』
【モーツァルト 交響曲第40番】
交響曲第40番
【モーツァルト ピアノ協奏曲第20番】
ピアノ協奏曲第20番


<今日の一枚>
この曲の持つ「柔和な貌」と「秘めた悲しみ」、優雅にしてダラケない規律、それを如実に表現しているのはやはりベームではないか。
今日は、ベームが聞きたい。
41番(ジュピター)ではベルリン・フィルとの演奏を推薦したが、この曲ではより典雅で流麗な演奏が聴けるウィーン・フィルとの組み合わせでいこう!
■モーツァルト 交響曲第39番 変ホ長調 K.543
 カール・ベーム指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

51jS38uwADL__SL500_AA300_.jpg


<推薦盤1>
今日の一枚のベームは推薦盤のトップクラスだが、ここでさらに挙げるとしたらワルターか。
ジュピターではコロンビア響との演奏を挙げたが、若い頃のワルターも良い。
ただ、致し方がないことだが音質という面ではやはり晩年の録音には及ばない。
39番、40番、41番(ジュピター)の最後期の3交響曲が収録されている。
これはモノラル録音だ。

41dM9ZgeSvL__SL500_AA300_.jpg


<注目盤>
古楽器から注目すべきCDが出ている。
序奏を本来の2拍子のマーチと捉える解釈だ。
私は初めて聞いたときにびっくりした、なるほど譜面通りならこうなるか。
名手ホープリチのクラリネットが聞ける。
■ジョス・ファン・インマゼール指揮 アニマ・エテルナ

122.jpg


2013.05.18 Sat l モーツァルト l コメント (0) トラックバック (0) l top
★ モーツァルト 交響曲第41番 ★
モーツァルトの最後の交響曲で、私個人としては人類最高峰の「音楽」と言って良いくらいに尊いシンフォニーである。
全楽章、美しい形式美に則ったモーツァルトらしい魅力的なメロディに満ちている。
39番、40番、41番と、天才モーツァルトは、このユニークで心躍る3つのシンフォニーを僅か3ヶ月程の間に完成させているのだ。
所謂、モーツァルトの3大シンフォニーは、1788年の夏に一気に書き上げられている。
研究では、39番が1788年6月26日、40番が7月25日、そして41番が8月10日に完成されたそうだ。
ブラームスの様に最初のシンフォニーに悩みに悩み、20年の歳月をかけて第1シンフォニーを誕生させる、慎重さ無骨さ、真摯さもあれば、200年以上経っても万人を魅了するシンフォニー3曲を、たった3ヶ月で完成させる離れ業もあるのである。
勿論、どちらが優れているか、などという不毛な議論は止めておこう。

〇 交響曲第41番 ハ長調 K.551『ジュピター』 〇
3大シンフォニーは言うまでも無く、どれも素晴らしいのだが、このシンフォニーはとても気高い。
凛とした顔を持ち、堂々とした風格に彩られているのだ。
故に、後世の人が付けた愛称が『ジュピター』。
ローマ神話の最高神の名前だ。
全くもって言い得て妙である。

〇 ジュピター音型 〇
第3楽章のトリオに顔を見せて、第4楽章で堂々と展開されるハ長調の「ドレファミ」のセットを「ジュピター音型」と呼んでいる。
このシンプルな音のセットをモーツァルトは、好んで使用したそうで、彼の最初の交響曲にも使われている。
かの大指揮者カール・ベームがわざわざ第1番のシンフォニーを演奏会にかけて(この幼年期の作品が演奏会向けではないことを百も承知で。)、モーツァルトの天才のベースはこのように7歳そこそこで確立されていたのだということを示したというような逸話を聞いたことがある。
第1シンフォニーに、ジュピター音型がちゃんと出てくるのだ。

モーツァルトの天才について語りだすと、どんな偉人でも大音楽家でも、私のようなただのおっちゃんでも、とにかく熱くなってしまうのだ。

〇 緻密な計算・終楽章 〇
この曲の第4楽章は、ポリフォニー音楽の粋ともいうべき構成であり、緻密に計算し尽されたフーガの技法が駆使されている。
システィーナ礼拝堂の門外不出の音楽を一回聞いただけで採譜したというモーツァルトでも、このフーガは丁寧に下書きをした形跡があるそうだ。
それほど、複雑な音の重なりになっている。
そして、全体の楽曲形式はホモフォニーのソナタ形式で書かれている訳で、正にポリフォニーとホモフォニーの融合という幸せな結果がモーツァルトによって高度に為された瞬間だ。
ああ、バッハがこの曲を聞いたら何と言っただろうか。

〇 ジュピターの特徴 〇
しかし、このシンフォニーをこれまで何度となく聞いてきて思うのだが、この曲にはモーツァルトのレベルで極論すると、特に目立った旋律的な「美」や、つい口に出るような人口に膾炙した旋律的・リズム的な新機軸はないと思う。
上述のジュピター音型にしてもモーツァルトとしても悪く言うと使い回しだし、当時他の作曲家にも使われたものだ。
にも関わらず、それでも私は誰が何と言おうと最高のシンフォニーだと確信しているだ。
それは何故なのだろう?
自分でも何度も考えてきたことなのだが、今言えることは、主題の組み合わせの妙と言えば良いだろうか、様々な主題が巧みにしかもスピード感を持って組み合わされ、展開されていく、ここにモーツァルトの音楽家としての集大成があるように思うのだ。
曲想一つをとっても、毅然とした顔を見せたかと思うと、物思いに沈み、高貴な天上のメロディーを刻んだかと思うと、とても俗っぽい開放的な一面も見せる。
それらが、次々ととてもスピード感溢れる展開を見せるのだ。
だから最高なのだと。
技術面も含めて、その典型が最終楽章なのだ。


【モーツァルト 交響曲第40番】
交響曲第40番
【モーツァルト 交響曲第39番】
交響曲第39番
【モーツァルト ピアノソナタ第11番『トルコ行進曲付き』】
ピアノソナタ第11番『トルコ行進曲付き』



<今日の一枚>
さて、この曲を1枚で纏めるようなことはとても出来ないと思うが、LPレコードの時代からずっと大切に聞いてきた一枚を今日も聞きたいので、紹介したい。
ワルターにはニューヨーク・フィルやウィーン・フィルとの演奏もあるが、この晩年の録音はとても風格のあるゆったりとした演奏だ。
ステレオ録音で、音質もとても良い。
■モーツァルト 交響曲第41番 ハ長調 K.551『ジュピター』
 ブルーノ・ワルター指揮 コロンビア交響楽団 1960年ステレオ録音 他、ワルターの名演を多数収録。

41qG3QGx0GL__SL500_AA300_.jpg
これは輸入盤で6枚組、1枚分で6枚のCDが手に入る価格感。
輸入盤で良い方には大変お得だ。
私もCDはこちらで聞いている。



<推薦盤1>
さてさて、推薦できるCDも色々あって迷うところだ。
どなたにも推薦できる安心の推薦盤としては、クーベリックを挙げたい。
平凡などと仰るなかれ。
ワルターほどアゴーギクも使わないし、非常に水準の高いところで、安心してモーツァルトの美しい音に浸りたい時に私も聞く盤。
■ラファエル・クーベリック指揮 バイエルン放送交響楽団
 こちらは、41番と40盤のカップリングだ。


41GY-V+kXpL__SL500_AA300_.jpg


<推薦盤2>
さあ、ワルターを挙げたらその弟子にも登場して貰わなければならない。
カール・ベームだ。
恐らく、この曲の厳しい表情や緻密な音の積み上げに関しては上記2枚よりも上ではないか。
■カール・ベーム指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1962年録音
 こちらは、モーツァルト:後期交響曲集 と銘打っているもので、35(ハフナー)・36(リンツ)・38(プラハ)・39・40・41(ジュピター)とモーツァルト最後の6曲のシンフォニーが揃った豪華盤。
6曲で考えたらお得な盤だ、ベームのモーツァルトに迫りたい方には最適!

41-73pc-IXL__SL500_AA300_.jpg


<推薦盤3>
こちらはちょっと入手が困難かも知れない。
記事本文でも触れたように、この曲の持つ特徴である素材(主題)の持つ様々な顔を鮮やかに浮き立たせるような解釈をしていると私が思う盤を紹介したい。
■サー・チャールズ・マッケラス指揮 プラハ室内管弦楽団 1986年録音
 こちらも40番とのカップリングだ。

210Y9ANXZ2L__SL500_AA300_.jpg

おお、入手困難かと思ったが、amazonで販売しているようだ。
但し、中古になるようだが。
2013.05.14 Tue l モーツァルト l コメント (0) トラックバック (0) l top
★ モーツァルト ピアノソナタ第2番 ★
このところハスキルを聞いていたので、彼女の残したモーツァルトの中で私が特にお気に入りのCDを取り出した。
実はハスキルはモーツァルトのピアノコンチェルトの録音は比較的多く残されているが、ピアノソナタは私の知る限り2番と10番の2曲しかない。
特に2番がいい。
ハスキルのモーツァルトは全般的に速めの演奏が多いが、10番のソナタは私には少し速過ぎるように感じる。
だが、2番の方は時折見せるテンポルバートも絶妙に嵌っている感がある。

○ 美しい第2楽章 ○
とりわけ、第2楽章の緩徐楽章ではハスキルの紡ぎ出す一音一音に説得力がある。
小節の最後の「声」には、モーツァルトとハスキルの「哀しみ」「癒し」が詰まっているようだ。
ここでもハスキルのテンポは速めで、たとえばリヒテルならば8分以上かかっていたこの楽章を大体半分の時間で弾き切っている。
ピレシュのテンポは標準的だと私は思っているが、やはりハスキルよりはかなり遅い。
そもそもモーツァルトの指定はアダージョだ。
しかし、このシチリア風(だったかな?)のメロディをハスキルが弾くと実に美しいのだ。
私はこのソナタのこの楽章がとりわけ好きで、巨匠と言われるピアニストの演奏は出来る限り聞いてきたが、ハスキルの美しさは次元が違う、いや驚異的と感じるのだ。
一つ一つの音に心が震える。
丁寧な語り口と各小節の最後のタメと余韻、これが素晴らしい。
これはハスキルが亡くなる年、1960年の録音でステレオだ。(あまり音場の広がりは感じないが)

○ ピアノソナタ第2番 ヘ長調 K.280 (189e) ○
先にハスキルで走ってしまったが、このソナタは所謂デュルニッツ男爵の依頼で作曲したと言われる6曲のソナタの内の2番目の作品だ。
従って、この6曲を俗に「デュルニッツ・ソナタ」と言う。
モーツァルトの作品で番号の若いものは幼少期と思いがちだが、ピアノソナタは違う。
このソナタも2番だが、モーツァルトが19歳で作曲したものだ。
モーツァルト、もうりっぱな大人、青年期の作品だ。

○ モーツァルトとピアノソナタ 謎? ○
3歳からチェンバロを弾き始め、天才の呼び声を欲しいままにしてきたモーツァルトが、何故その年齢までソナタを作曲しなかったのだろう?
恐らくモーツァルトにとって鍵盤楽器は最も日常的な楽器で、人前での演奏も含めて、「即興」で奏するものだったのだろう。
楽譜に残す需要が無かったのではないだろうか。
彼の曲は彼が演奏できれば良かったのだから。


【モーツァルト ピアノソナタ第11番『トルコ行進曲付き』】
ピアノソナタ第11番『トルコ行進曲付き』
【モーツァルト ピアノ協奏曲第20番】
ピアノ協奏曲第20番
【モーツァルト ピアノ協奏曲第9番『ジュノーム』】
ピアノ協奏曲第9番『ジュノーム』



<本日の一枚>
■モーツァルト:ピアノ協奏曲第19番ヘ長調K.459 /同第27番変ロ長調K.595
       ピアノ・ソナタ第2番ヘ長調K.280(189e)
 クララ・ハスキル(P)
 フェレンツ・フリッチャイ指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団, バイエルン国立管弦楽団

61PpRQJ2zRL__SL500_AA300_.jpg

2013.03.13 Wed l モーツァルト l コメント (0) トラックバック (0) l top